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地球倫理:Global Ethics
地球システム・倫理ニュース
SEPTEMBER 10, 2020
まえかわ・きへい
1955年生まれ。元文科省事務次官。文科省官房長、初等中等教育局局長、文部科学審議官などを歴任。加計問題を巡り「総理のご意向」を示す文書の存在を明言した
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
官僚の「下僕」化さらにひどくなる 前川喜平の安倍政治総括と体験的「菅義偉」論
2020年9月10日 05時00分(最終更新 9月10日 11時57分)
サンデー毎日
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菅政権は安倍政権以上に危険だ!
本誌は前号で、十全な総裁選実施なら石破首相誕生かと報じたが、党員投票なし、安倍政権への総括なし、菅義偉氏の政策への吟味なしで、菅政権が後継となる様相だ。
それは安倍政権の内実強化政権であり極めて危険だと警鐘を鳴らす前川喜平元文部科学事務次官が、安倍―菅ラインの正体を暴く。
かつての自民党であれば石破茂氏を選んでいたであろう。
病気を理由に突然辞任を発表した安倍晋三氏の後継首相である。
コロナ対応だけではない。その基本政策・路線そのものが深刻な行き詰まりを見せていたからだ。
出口なき異次元金融緩和政策、外交なき従米軍事抑止力至上路線、説明責任なき「モリ・カケ・桜」政治不信がそれである。
トップの顔を変えることは、その基本政策・路線に軌道修正を図る好機になる。
金権・田中角栄の後にはクリーン・三木武夫を、日米関係悪化を招いた鈴木善幸の後には「ロン・ヤス関係」の中曽根康弘をと、持てる人材を巧みに振り当て、いつの間にか政権のイメージ、路線を変更することによって権力の命脈を保ってきた。
本格的政権交代ならぬ疑似政権交代の知恵とも言われた。
その伝で言えば、安倍政治に距離を置いてきた石破氏の出番だった。
それが疑似どころか安倍政治に酷似としか言いようのない菅義偉政権が誕生する運びである。
前号でも触れた菅・二階俊博幹事長ラインが、退陣表明前後から「GoTo政権獲得」に乗り出し、一気に流れを決めた。
二階氏の仕掛けの速さ、菅氏の秘められた野心、安倍氏の「菅でOK」サインが決め手となった。
それにしても、安倍政治へのまともな総括もないまま、菅氏という人物の吟味もそこそこに、政策論争が始まる前に勝負が決まっているという猿芝居ぶりだ。
ここは前川喜平元文部科学事務次官に聞く。
加計(かけ)学園問題に代表される政権による権力の私物化を一貫して告発、現職官僚時代には菅氏との接点もあった人物だ。
安倍政権の内政を担った菅氏は危険
安倍退陣で何思った?
「病気でお辞めになるのは我々にとって残念だ。やはり説明すべきは説明し、是正すべきは是正し、謝るべきは謝って、責任とって辞めてもらう、そういうのが望ましかった。病気ということですべてが免罪される、そういう雰囲気になっているのが問題だと思う。次を石破(茂)氏にしないための演出だった、という見方もある。党員投票すれば石破氏に行ってしまう」
そのレガシーは?
「ほとんど何も成し遂げてない。外交の安倍と言うが、拉致問題は何も解決しなかったし、プーチン露大統領とあれだけひざ詰め談判した形はとったが結局領土は1㍉も帰ってこない。韓国、北朝鮮、中国との関係も全く良くならない。メルケル独首相のように移民、地球温暖化、人権問題でしっかりと考え方を発信したわけでもない。世界の尊敬を集めるリーダーではなかった」
「経済政策では、アベノミクスでカンフル剤をどんどん打った。その結果何が起きたか。コロナ禍でこれだけ経済が停滞しているのに株価だけ高い異常な世界が現出した。我々の年金資産までつぎ込まれている。日銀もまた国債と株を大量に抱え込まされ、後始末しようにも出口が見えないところまで追い詰められた。一方で産業はどんどん劣化、日本経済は成長してない」
「安倍政権というのは、権力維持自体が目的化していた。そのためにあらゆる手段を使った。本来公僕であるべき官僚を私的に下僕化した。あるいは私兵化した。だから、政治が私物化し放題になった。大罪だ。私の役人人生を振り返っても過去の政権にはなかった。小泉純一郎政権も官邸主導と言われたが、郵政民営化など最終決定を小泉氏がするだけで、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を経ていた。私の仕事で言えば三位一体の改革というのがあって、最初に削減のターゲットにされたのは義務教育費国庫負担金だった。担当課長として自分の名前を出し徹底的に抵抗した。官邸に盾突いたと見られても仕方ないのだが、省内でも各省とも官邸ともきちんと議論ができた。左遷されることもなかった」
「安倍政権になって、官邸が肥大化し、官邸官僚と呼ばれる人たちが本来各省がやるべき政策の企画立案までやってしまう。各省はその下請け機関になっていた。霞が関を骨抜きにしたわけだ。自分になついてくる、というか、自分が信を置く少数の人間だけで決めてしまう。広く議論しない。だから、間違ったことがそのまま通ってしまう」
そしてモリカケ桜だ。
「いずれも権力の私物化だ。山口敬之(のりゆき)(元TBS記者)氏のようにお友達だと捕まらないが、お友達でなくなると籠池泰典(森友学園元理事長)氏のように捕まってしまう。私物化は官邸官僚たちにも伝播(でんぱ)した。例えば、和泉洋人(ひろと)首相補佐官だ。お気に入りの女性官僚を同伴、宿はコネクティングルームを注文する。魚は頭から腐る。まさにそれが起きていた。にもかかわらず首相が責任を問われることなく、ごまかし続け、逃げ切ろうとしている。この手の政権は危ないと思っていたが、次の政権もこの体質を受け継ぐだろう」
菅義偉政権の流れだ。
「私は安倍氏以上に危険だと思う。安倍政権の権力を支え、内政を仕切ってきたのは、実質彼だからだ。霞が関に対する締め付けはさらにきつくなり、安倍時代以上の官僚の官邸下僕化、私兵化は進むであろう」
現職時代の接点は?
「次官を務めた2016年のことだ。作曲家の船村徹氏が文化勲章を受章したが、『菅案件』とも呼ばれた。船村氏の実績からすればそれほど不自然なことではなかったし、加計学園のような無理をしたわけではないが、少し優先順位を上げたということはあった」
「16年の文化庁長官人事でも菅裁定があった。馳(はせ)浩文科相の了解をもらって女性の候補(役人出身)を官邸に持って行ったら杉田和博官房副長官はいいと言ったが、菅氏は『ダメだ。文化人にしろ』となった。その後意中の人として伝わってきた宮田亮平芸大学長に差し替えたらすっと通った」
菅氏とは別の軋轢(あつれき)も?
「文科省の違法天下り問題の責任を取って17年1月20日に次官を辞めた時のことだ。菅氏が官房長官会見や国会答弁で私が地位に『恋々としがみついた』と批判したことがあったが、全くの誤りだ。むしろ私は責任を取りスパッと辞める意思を杉田副長官には1月5日の段階で告げており、意図的に話を捻(ね)じ曲げたとしか思えない。今でも名誉毀損(きそん)に当たると思っている」
菅氏の立候補会見見て。
「首相になって何がしたいのか、政策が見えない」
ふるさと納税と言う。
「菅氏はふるさと納税が大好きで、盾突いた総務省自治税務局長は飛ばされた」
霞が関死屍(しし)累々とも。
「文科省でも、菅氏の注文にちゃんと答えられなかったので飛ばされた幹部がいる、と聞く。会社でもワンマン社長がイエスマンばかり集めるとつぶれるという。霞が関もそうなりかけている。同じ長期政権でも小泉政権では百家争鳴、言いたいことが言えたが、第2次安倍政権ではピタッと止まった。安倍氏と言うより菅氏の体質だろう。これまでも『安倍・菅』政権だったが、そこから『安倍』がなくなっただけだ。本質は変わらない。むしろ統制色は強まるのではないか」
権力に従順な国民がつくられた
「コロナ対応の中でもひどかったのは2月27日の全国一斉休校要請だ。直前に北海道知事が全道休校してメディア受けが良かったのを見て官邸官僚たちが政治的パフォーマンスとして画策した。だが明らかに間違っていた。日本小児科学会が発表(5月20日)した見解によると、子供は感染リスク、重症化、致死率いずれも低く、学校での感染拡大リスクは低いことが判明した。高リスクの繁華街を放置し、真っ先に学校を全部休校にする、全く本末転倒な政策判断だったわけだ」
「深刻な後遺症が起きている、学校が感染リスクの高い場だ、という潜在意識を教師や保護者に植え付けた。学校再開後も怖くて行けない子がいる。学習の遅れは2カ月から4カ月分にも及んだ。取り戻すために現場がどれだけ苦労しているか。夏休みを切り詰め、授業時間を詰め込む。マスクをしたまま、場所によってはフェースシールドも付けろと、窮屈な授業をしている。恐らく不登校が急増するだろう。子供のスマホ、ゲーム依存が進んだ。生活困窮家庭の子供は学校の給食がなくなり栄養が取れなくなった。子供には大きな受難となった。明らかに人災であり、大本は安倍氏だ。国会で検証する必要がある」
家庭内虐待も懸念?
「全国児童相談所の5月の虐待対応件数は、前年同月比で6%減少しているが、児童・青少年に対する電話カウンセリング『チャイルドライン』では相談件数が激増している。減っているのは虐待ではなく、学校、保育園、病院からの通報であり、それに基づく児相の取り扱い件数だと見るべきだ。深刻で重大な事案が生じているが、現段階では見えずに潜在化している」
的外れの政策が国策化?
「官僚だけではなくて日本の統治機構全体が安倍1強支配の下に置かれた感があった。というのも、本来学校の休校を決める権限は地方教育委員会にある。仮に首相がそれを要請し、文科省が指導、助言したとしても、各教委がそれぞれの地域の実情に合わせて子供たちに危険があると思えば休校にするし、ないと思ったら休校にしなければいい。結果としては99%が休校した。長い物には巻かれろ、権力者には従う、という意識が霞が関だけでなく日本国全体に蔓延(まんえん)している」
もし次官だったら?
「面従腹背だ。首相の要請はそれとして伝えるが、全国の教委に電話して、自分たちで、学校ごとに考えてほしいと言ったと思う。全国一斉は理不尽だった」
安倍政権の教育政策は?
「第1次政権の教育基本法改正以来の国家主義的考えがさらに強まった。道徳を特別な教科に格上げ、検定教科書を必ず使うという縛りをつけ、国が決めた道徳を子供たちに押し付ける傾向が強まった。18年に小学校、19年中学校で始まった。特定の価値観を子供に刷り込み、権力に従順な国民を作ることになる」
安倍政権の私物化問題を徹底検証せよ
モリカケの最終総括を。
「私自身が経験した加計学園問題は、17年の文科省文書、18年の愛媛県文書を突き合わせれば事件の全容がわかってくる。要はこうだ。15年2月加計孝太郎理事長が安倍氏と面談、獣医学部新設計画を報告し、安倍氏が『いいね』とコメントした。その段階でトップ同士の話はついており、そのシナリオ通りに物事は進んだが、石破氏が地方創生担当相だった2年間は進まず、石破氏が退きまた再開した。2人は面談そのものを否定しているが、わざわざ加計学園の事務局長が愛媛県に報告した内容だ」
「一方、森友学園問題はまだ事実関係がはっきりしていない。なぜ国有地がタダ同然で払い下げられたのか。近畿財務局が勝手に忖度(そんたく)した、という話になっているが、政治との関わりがブラックボックスになっている。決裁文書改竄(かいざん)も然(しか)り。理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)氏以下でやったとなっているが、佐川氏が独断でやったかというと疑問だ。少なくとも官邸に報告なり了解を取っただろう。いずれも官邸との関係がなお謎だ」
「本来は政権交代という機を捉え、安倍政権の私物化問題を検証する特別委員会を国会内に設けて証人喚問し、国会が行政監視機能を発揮すべき場面だ。与野党がひっくり返らない限りできないと思うが、このままでは噓(うそ)をついて逃げた方が勝ちになってしまう」
現政局にメッセージを。
「(野党は)合流を機に政策で与党との対立軸を打ち出してほしい。一国主義的ではない外交、コロナ対策では検査を広げ、休業補償し、医療体制を充実する。新自由主義的経済政策を改め、公平公正な社会を作っていく。高等教育まではベーシックサービスとして提供し国民全体で応能負担していく。国が都合のいい人間を作る教育はやめる」
「(自民総裁選は)党員投票を実施、各候補が対等に戦える土俵を作るべきだった。石破氏には国民生活全体に責任を持とうという真っ当な感覚があるように思う。安倍、菅両氏の関心は自らの権力を維持、拡大すること。そういう人に政治をやってほしくない」
前川氏ならではの政権総括、新政権への見立てであった。さて、新首相指名後の政局である。
「9月25日に臨時国会を召集、29日衆院を解散、10月13日公示、25日投票」説がある。菅氏は局面で勝負することで権力の高みに上ってきた人物だ。国民からの信認獲得、安倍同情、新政権ご祝儀票を期待できるこのタイミングを逸することはないのではないか、と予想する。
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