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「世の中が変わることが面白い」 84歳の田原総一朗氏がAIに興味を持つ理由
2018年11月27日
[松本健太郎,ITmedia]
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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「ジャーナリストの田原総一朗さんが、熱心に人工知能の取材をされているらしい」「彼はものすごく人工知能に興味関心を持っている」――出版関係者などから、そういう話を聞くことが何度かありました。
今年8月に放送された、田原さんが司会を務める討論番組「朝まで生テレビ!」のテーマは人工知能。会員制Webメディアのクーリエ・ジャポンではAIの連載を担当し、この内容を基にした「AIで私の仕事はなくなりますか?」(講談社)という新書も出されています。
2018年現在、御年84歳。
人工知能についてチンプンカンプンで、危機感も期待感を抱かない中高年ビジネスマンもいる中で、なぜ田原さんは熱心に人工知能の取材をされているのでしょうか。何に興味を持ち、何に疑問を抱いているのか。
「数学や化学が苦手な典型的な文系人間」と話す田原さんに、人工知能に興味を持ったきっかけや、人工知能の最前線の現場を取材して気付いたこと、人工知能時代の生き方などを聞きました。
人工知能に出会った田原総一朗さん
―― 田原さんはテレビ番組「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」などで、政治・経済関連の話題に深く鋭く切り込んでいる姿が印象的です。人工知能に興味を持たれているのは意外でしたが、そのキッカケは何だったのでしょうか?
(田原) AIが今、どんどん普及しているでしょう。僕は数学や技術関連の才能は全くないけれど、好奇心だけは強い。だから「AIって何だ?」と思った。
AIが世の中をどんどん変えようとしている。
どう変わるか、どこまで変わるかを考えると面白い。
人工知能があれば世の中が便利になるし、便利になるのは良いことだ。
僕は世の中で起きるあらゆることをポジティブにとらえていて、AIで世の中が変わっていくことは良いことだと思っている。
人工知能について調べてみると、今までも似たようなことが起きていたと分かった。
18世紀~19世紀にイギリスで産業革命が起きて機械化が進み、人間の仕事が機械に奪われるんじゃないかと恐れられ、労働者たちは機械ぶち壊し運動(ラッダイト運動)をやった。
でも、機械化のおかげでむしろ仕事はどんどん増えた。
同じように、米オックスフォード大学と野村総合研究所が共同研究して、10~20年後には日本人の仕事の49%が失われるという結果を発表しましたね。
産業革命と同様に、AIによって新しい仕事が生まれるという意見もあれば、仕事を奪われることを恐れる意見もある。いろいろ意見が分かれていて面白い。
AIのキーマンはシリコンバレーに
―― 著書「AIで私の仕事はなくなりますか?」の中で、米Googleの人工知能部門「Google Brain」創始者の1人グレッグ・コラードさんや、ディープラーニングの第一人者である東京大学の松尾豊特任准教授の他、トヨタ自動車、三井住友銀行、パナソニックなどシリコンバレーに研究所や支店を置く日本企業のキーマンに話を聞いています。
今までは、人間とロボットの違いは「自分で成長するかどうか」だった。
つまり、ロボットそのものがモノを考えて進歩することは出来なかった。
しかし、人工知能は人間と同じく成長する。ただ、どこまで成長するかが今は大きな問題になっている。
東大の松尾さんは「人工知能の世界で日本はアメリカの3周後れ」だと言っていて、何で遅れているんだと興味を持った。
人工知能の担い手はGoogle、Apple、Facebook、Amazonといった、いわゆるGAFAでしょ。
みんなアメリカの企業だ。
それでトヨタやパナソニック、三井住友銀行にも取材をしたいと思った。
それぞれシリコンバレーで活躍する中心的な人物が日本に来てくれて、答えてくれた。
―― 今回取材された多くの日本企業は、シリコンバレーに拠点を持っています。
トヨタの社長に「取材したい」と言ったら、「自動運転に関するメインの研究所はシリコンバレーにある」と言われた。
「何でシリコンバレーにあるのか」と聞いたら「日本には人工知能の研究者があまりいない。かといってスタンフォード大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学の優秀な人材は日本に来てくれない」と。
各企業のキーマンに日本に来てもらい、取材した。
―― 人工知能への印象は変わりましたか。
人間にできて人工知能にできないものとして、創造力や価値判断、疑問を持つこと、イシュー(課題)を持つことなどが挙げられる。
しかし、本当に創造力を持たないのか。人工知能は音楽を作れるし、小説だって書けるでしょ。
―― AIは「読解力が苦手」とされており、「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子著)という本も話題になりました。
しかし、今年11月にはGoogleの自然言語処理のモデル「BERT」が特定の条件下で人間より高い精度を記録したと発表されました。
2~3年以内に読解力でも人間は人工知能に負けるかもしれませんね。
僕もそう思う。読解力は経験だから、ロボットが経験を積んでしまえば良いわけでしょう。
創造力も同じで、経験値を積み重ねていけば創造力を持ったロボットが大量に出てくるだろう。
人工知能は人間の仕事を奪うのか?
―― 著書のタイトルにもなっていますが、果たして人工知能は人間の仕事を奪うのでしょうか。取材を通してどう感じましたか。
世の中の多くの人は仕事は与えられるものだと思っているが、僕は違うと思う。
「仕事は作るもの」
仕事は自分で作るものだ。
人工知能の時代になると、仕事は自分で作るものになっていく。
人工知能に使われる人は仕事がなくなっていき、自分のやりたいことに人工知能をうまく使える人はどんどん仕事が増えていくだろう。
僕は大学生たちに「大学の4年間で自分の人生をかけても良いと思える何かを見つけなさい。自分が一体何をしたいか考えなさい」と言っている。
就職活動で企業を選ぶ基準を聞くと、倒産しない企業、給料の高い企業、残業のない企業だと答える。自分のしたいことがない。
ところで、あなたはなぜこういう仕事をやってるの。何で人工知能に興味を持ったの。
―― 単純に、人工知能に興味を持ったからです。世の中にはまだ解けない謎が山のようにあります。パズルを解くように、謎が解けたら面白い。
何が面白いの? 世の中の解けない謎なんて、人工知能以外にもいっぱいあるじゃない。
―― 数学が好きというのはありますね。
なるほど。そういう人はいるでしょうね。
―― 自ら仕事を作り出していける人にとっては良い時代になる。
僕は落合陽一(※編集部注:メディアアーティスト、研究者、実業家として多方面で活動)と親しくしているが、彼ほど人工知能に前向きな奴はいないし面白い。
世の中ではワークライフバランスという言葉がはやっているけど、彼は「ワークアズライフ」と言っている。
つまり、仕事とプライベートを分けず「好きなことやれ」ということ。
仕事がつまらないから趣味があるわけでしょ。
好きなことができるなら趣味はいらない。
僕は寝るとき以外はずっと仕事しているが、好きなことをやっているから仕事じゃなくて趣味と考えている。
―― ところで「仕事が人工知能に奪われる論」については、世界でさまざまな反証論文が出ています。
私が書いた記事でも、ヨーロッパ経済研究センターのメラニー・アーンツ研究員たちの論文を紹介しました。
タスクは奪われても仕事自体が奪われたりなくなったりすることは、そうそうないと思います。
人工知能は仕事を奪わないというのが、あなたの立場。
これはすごく単純な話で、人工知能が普及すれば安いホテルは全部ロボットになり、高いホテルは人間がもてなすようになるだろう。
レストランなんかもそうだが、仕事が自動化されれば付加価値として人間のおもてなしが大事になる。
問題は「定年後をどう生きるか」
―― アーンツ論文では、デジタル化に対応できない人の失職の可能性が示唆されており、50代以上の人材の再教育が重要なトピックになっています。
再教育はすごく大事なこと。
いまiPS細胞の取材をしていて、京都大学の山中伸弥教授にも何度か会っている。
今から何十年かたつとあらゆる病気が全部治る可能性があり、人間の平均寿命は120歳になるかもしれないらしい。
定年が60歳として、あと60年をどう生きるのかは大きな問題。
あと60年間生きるためには再教育が必要だろう。
人工知能がどうこうより、70代、80代、90代とどう生きていけばいいのかが問題だ。
変化を楽しめる人と組織が生き残る?
―― 田原さんが人工知能にポジティブな印象を持っている一方で、新聞やテレビなどでは「仕事を奪うもの」とネガティブな面が語られることもあります。
人工知能は世の中を変えていくものだが、マスコミは変化を嫌うもの。
新聞の広告収入はどんどん下がり、いまやネットの方が優位になっている。
部数が減ると収入が減り、取材費もどんどん減らされる。
いまのジャーナリズムはそうした問題を解決しないといけない。
―― われわれ含め、人工知能に関する正しい知識を世間に伝えるメディア側にも責任がある。
落合陽一とか堀江貴文とかドワンゴ人工知能研究所の山川宏とか、こういう世の中を変えようとしている人たちに関心持って会わなきゃ。
あなたも会う努力をしなきゃいけない。
―― ありがとうございます。田原さんは個人で活躍する人だけでなく、大企業にも取材されています。日本の大企業は変化を嫌うといわれていますが、それについてはどうですか。
例えば銀行の役割はだんだん成立しなくなる。
元来、銀行は貸し付けでもうけていたのに貸付量は減っている。
なぜなら日本の成長が止まっていて、設備投資をしないから。
それだと銀行はもうからなくなるが、だから面白い。
まさに変わらないといけないでしょ。
変わることを面白いと思うか、良くないと思うかだ。
大企業の経営者は、変わらなきゃ生き残れないという危機感だけは持っている。
でも社員は変わってほしくない。
現場は、自分たちの仕事が否定されるのは大反対だから。
新聞で言えば、記者たちは今までやってきた経験とキャリアはなるべく変えたくない。
テレビもそうだし、自民党だってそうだ。
上層部や幹部は変わらないといけないと思っている。
上の人間はものすごく危機感を持っているが、議員の多くは当選さえすればいいから変えたくはない。
もちろん、国会議員の中でも小泉進次郎のように変わらなきゃいけないと思っている人もいる。
AIで何を解決したいのか
―― いろんな業界が、これからカオスと化していくんですね。
何言ってるの、全然カオスじゃないよ。
変わろうとして、彼らは生き生きしている。
あなたは変化に否定的だからカオスなんて発言が出る。
いろんなところで変化が起き始めている。
政治もそうだ。
アメリカではトランプが出てきたが、今までの大統領とは全く違う。
どこが違うと思う?
―― 全く政治経験がないまま大統領になった人、でしょうか。
そうじゃない!
こういうことをしっかり考えないと人工知能に負けてしまう。
世の中でいろいろな変化が起きていて、どんどん刹那的になっている。
イギリスのEU離脱の動きだってそうだ。
民主主義を守ろう、EUを守ろうと考えたドイツのメルケル元首相だって失脚してしまった。
人工知能を学んでいるなら、そうした話題に好奇心を持たなきゃいけない。
そういう問題に対する好奇心を持ち、どうやって人工知能で解決するかを考えると人工知能の幅も広がる。
どんどん挑戦していかないと。
取材を終えて
好奇心が服を着て歩いているような人。
それが田原総一朗さんなのだと思います。
インタビューを終えて、私の著書の1つである「誤解だらけの人工知能」をお渡しすると、あいさつもそこそこにすぐ読みふけっておられました。
学び続けようとする情熱の深さに、私自身が同じ84歳になったときに同じことをできるだろうかと胸に手を当てました。
人工知能はあくまで手段。
その手段を用いて何をするのか。
それを考えるためには視野狭窄であってはならないというおしかりを受け、反省するしかありません。
1人のエンジニアとして背筋が伸びたインタビューでした。
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