福島香織の中国趣聞 周中放談:米大統領選の真の勝者は習近平?
「福島香織の中国趣聞」様より
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福島香織
(ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家)
1967年、奈良市生まれ。
大阪大学文学部卒後、産経新聞入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿、ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。
主な著書に「中国の女」(文春文庫)「新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない」(ワニブックス)「習近平の敗北 - 紅い帝国・中国の危機」(ワニブックス)「米中の危険なゲームが始まった」(ビジネス社)「ウイグル人に何が起きているのか」(PHP新書)など多数。
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@kaori0516kaori
福島香織の中国趣聞 NO.203:周中放談:米大統領選の真の勝者は習近平?
発行者:福島香織(ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家)
2020/11/06 07:33
福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップ)NO.203 2020年11月06
おはようございます。
昨日の夕方は林原チャンネルの討論番組「いわんかな」の収録でした。
高山正之さん司会で、馬渕睦夫元ウクライナ大使に、今回の米大統領選の結果についてお話を伺いながら、宮崎正弘さんや塩見和子さんとも一緒に議論に参加しました。
馬渕大使は、この選挙結果について、
「トランプ圧勝たたし不正がなければ、という私の予測どおり」
とおっしゃっていました。
つまり、今回のバイデン勝利の選挙結果は大規模な不正があった、という見方です。
ミシガン、ウィスコンシンといった民主党知事の州でバイデン票が急に一気に積みあがる不自然さなどについて説明をうけました。
興味深かったです。
私は、今回の米大統領選は一種の階級闘争、革命だと感じました。
その実態が、大衆煽動、メディアによる世論誘導を利用した権力闘争というあたりが、とても中国的ですね。
でも、実は中国の世論誘導、宣伝工作は米国に学んだところも多く、こうした”革命”の仕掛けの元祖は米国なのかもしれません。
ということで、今回の大統領選の勝者は実は習近平かも?
たぶん、今頃祝杯を挙げているかもしれません。
今回は、米大統領選の感想を交えた放談です。
◆
【周中放談:米大統領選後の混沌 真の勝者は習近平?】
米大統領選の真の勝者は習近平かもしれない。
習近平政権としては少なくとも秋以降は、トランプ政権続投の可能性を念頭に対中融和の可能性を捨てる方針で政策の布石をうってきた。
義烏の工場のグッズの売れ行きや、華人らの投票の動きからみてもトランプが勝つ可能性の方が強いとみていた。
経済官僚らの間に漂っていた春から夏にかけての対外開放路線や対中融和への未練は、秋以降なくなり、いわゆる習近平的戦狼外交色が全面に押し出される格好になったことが、そうした党内予測があったことの証左だと私は見ている。
なので、今回の選挙結果は、習近平政権にとっては、想定外。
だが、うれしい想定外だろう。
バイデン大統領の誕生であっても、あるいは法廷闘争に持ち込まれて米国が混乱するにしても、内政で追い詰められた習近平にとって僥倖といえる。
習近平にとって最もよいのは、もめにもめて米国内が分断された状態でバイデン大統領が就任すること。
これは米国のレームダックを一気に加速することになるだろう。
トランプ大統領の続投であっても米国内は分断されたままだが、トランプにはその分断を抱えたまま、対中強硬につっぱしる強引さがある。
だが、バイデン政権はおそらく対中強硬路線にはいかない。
いやいけない。
人権問題は確かに民主党の旗印であり、口では厳しいことを言うかもしれないが、オバマ大統領のときも、クリントン大統領のときも、民主党は中国財界との癒着が深く、それを捨てる勇気はない。
トランプファミリーももちろん中国経済との癒着があったが、トランプにはイヴァンカ夫妻に中国利権から手を引かせるなど、大局的利益と目の前の個人的利益をはかりにかけ選択できるビジネスマンの目と決断力があったとみている。
少なくとも中国の予測を上回る言動をして、習近平政権を翻弄することにかけては、バイデンより上であろうと思われる。
選挙前に流れたバイデン・スキャンダルというのは、一度流れてしまったので、習近平にとってカードとしてどれほど有効かはわからない。
だがその決定的な証拠を握る葉簡明の身柄は中国が2018年2月以降、握っている。
表ざたになっていな「ネタ」もあるならば、多少はバイデン政権に対する影響はまだあるかもしれない。
また、民主党の性格から見ても、米ハイテク業界の強い要望を受けて、ハイテク分野の対中エンティティリストを解除し、これにともない貿易戦争も白紙に向かうだろう。
トランプ政権が進めていたグローバルサプライチェーンからの対中デカップリング路線は修正されていくのではないか。
これでグローバリストたちは、堂々と中国市場に技術や投資を行うことができ、追い詰められていた中国経済とハイテク業界は息を吹き返す目がでてきた。
習近平としては長期独裁政権を阻む最大の敵、トランプ政権はいなくなったということになる。
もし、習近平にまともな判断力があれば、口で対中強硬的なことをいうバイデン政権に対しては口頭で激しい反論をやりながらも、なんとか米国とうまくやっていこうと対中融和路線に切り替えてゆくだろう。
グローバリストたちは、めでたしめでたし、これで中国市場で心置きなくビジネスができると喜ぶかもしれないが、台湾や香港の自由や人権、そして主権や一国二制度は決定的に危うくなるかもしれない。
オバマ政権でも思い知ったが、民主党は口では人権と言いながら、実際に人権を守るための実効力ある大統領令を出したり、経済制裁や金融制裁を伴うやり方はしない。
中国の人権問題に対峙していたのはトランプ政権であった。
ベンガジ事件の例でも紹介したように、武器を裏で中東反政府ゲリラに流し、戦争ビジネスを行っていたのは民主党政権で、アラブ首長国連邦とイスラエルの国交樹立の仲介をしたのはトランプ政権だった。
そして日本にとっては台湾の主権が揺らぐと、尖閣を含む沖縄の主権が危うくなっていく。
もちろん、バイデン政権の路線はまだ不明だが、日本はあまり甘い期待をしない方がいいだろう。
習近平があまり賢くない場合、米国内政の混乱に乗じて、台湾や南シナ海で軍事的なアクションを起こすかもしれない。
そうなれば、たとえ民主党政権であっても、バイデン・ファミリーや民主党主要議員が中国企業家と癒着していようが、米国としてのメンツを守るために中国と軍事的対峙をせざるをえない。
それは習近平独裁の寿命を縮めるどころか、共産党体制の終焉につながる可能性がある。
だが、普通の知的水準があれいば、ともあれ今は米国との関係を修復し、中国のハイテク製品の完全国産化と一帯一路戦略の完成、通信覇権の樹立をまず目指すはずだ。
米中対立の緩和、それを平和という人もいるだろうが、それはより冷酷な独裁に続くプロセスだと考えれば、そんなつかの間の平和を喜ぶきにはなれない。
◆
【おまけ】
中国が関わるバイデン・スキャンダルについて、すでに報じられり、発表されたりしている部分を整理しておきたい。
米国でこれまでニューヨークポストなどのメディアで報じられてきた部分は、中国の企業家で華信能源のCEOだった葉簡明が2015年以降、バイデン・ファミリーと取引した6件。
① シノホーク(華鷹公司)の合弁
2017年5月13日、葉簡明の米国の代理人(薄甜甜)がハンター・バイデンに送ったメールで、二人の合弁企業シノホークのCEOボブリンスキがメールの受取人で、CCにハンターとロブ・ウォーカー(元クリントン政権高官)にも転送されていた。
メールの内容は、シノホークにおいて、ハンターは主席、あるいは副主席のポストで“850”の給料を受け取ること、株の配当6人分についての臨時協議などの確認。このうちの5人は20H、20RW、20JG、20TB、10Jim。Hはハンターのことのようだ。そして6番目に10はビッグガイへ。とある10%の配当はビッグガイと呼ばれる人物に与える、ということで、ボブリンスキは10月22日に、このビッグガイがハンターの父ジョー・バイデンのことだとする証言を公開した。10月15日、ニューヨークポストが報じた。
② 3000万ドルの口利き料
ハンターが2017年8月2日に送ったEメールで、華信との間で以前に結んだ3年の契約についてのべており、“引見料”(父バイデン副大統領と引き合わす見返り料)に毎年1000万ドルの報酬を払う、という。
このメールは、葉簡明が後に、ハンターがハドソン・ウエストという持株会社を所有させ、双方が50%ずつの株を持つというより良い条件の取引を提案している。
「董事長(葉)の子の提案に私と私の家族はともに魅力を感じている。
我々も合資会社の投資株権と利潤のパートナーになりましょう」
とある。
③ ハドソン・ウエストの合弁事業
上院議員のロン・ジョンソンらが9月に発表したリポートによれば、葉簡明の傘下にある華信インフラ投資企業の董事長の董功文とハンターは合弁でハドソン・ウエスト社を創設。
董功文は2017年8月4日、ハドソン・ウエストに500万ドル振り込んでいた。
ハドソン・ウエストは一年以内に、バイデンの弁護士事務所に479万ドルのコンサル料を支払っていた。
2017年9月、ハドソン・ウエストは一枚のクレジットカードアカウントを作り、ハンターとハンターの叔父のジムとその妻サラは、そのクレジットカードで10万ドル以上の商品を購入している。
④ ハンターは葉簡明が4000万ドルのプロジェクトを請け負うのを手助けした。
ハンターの助けを得て葉簡明はルイジアナ州のモンキーアイランドの4000万ドル相当の天然ガス投資プロジェクトを手に入れた。
ハンターはその返礼に葉簡明から2.8カラットのダイヤモンドをもらった。
ハンターの前妻の弁護士の見立てではこのダイヤは8万ドルの値打ちがあり、ハンターは1万ドルで葉からこれを購入した、という。
⑤ 110万ドルの弁護士料
ジョンソン上院議員の9月のリポートによれば、2017年8月4日、葉簡明傘下の華信インフラ投資公司はハンターの弁護士事務所に10万ドルを支払った。
ハンターのメールで、2017年9月に弁護士契約に署名したとあり、葉簡明傘下の中華能源基金会副主席の何志平がハンターに100万ドルの法律顧問費用を支払うことに同意した。
⑥ 葉簡明はロシアエネルギー企業ロスネフチの14.16%の株を購入
2017年9月、葉簡明はロスネフチの14%の株91億ドルを購入。ハンターは葉の個人弁護士としてこの買収に参与した。
葉簡明は、江沢民派、曽慶紅派の人物として知られている。
福建省の農村生まれで高校を卒業して商売を始めた。
しかし10年もしないうちに、各国の政治にも関与し、王族ともコネクションを持つ大企業家に成長している。
いつの間にか韓国京畿大学名誉政治学博士、華東政法大学客員教授、アジアブランド十傑リーダー、国際投資戦略家、世界40歳以下ビジネスエリート第40位、2017年度最も中国で影響ある企業家、ローマクラブ名誉主席、米国エネルギー安全理事会栄誉主席、国連大会主席特別栄誉顧問、チェコのゼマン大統領の対中経済・外交・投資顧問などの肩書を持つ。
葉簡明は2009年から2017年の間、江沢民、曽慶紅の大本営である上海におり、江沢民閥が掌握している二大領域、金融と石油の業界で頭角を現す。
2015年、華信は中国三大国有石油、中石油、中石化、中海油につぐ第四の石油会社といわれるようになった。2017年に華信は連続4年米国フォーブスが選ぶ世界500強企業にランクインしている。
2017年9月、華信は91億ドルで、ロスネフチの第三の株主となった。葉簡明に関与する7人のキーマンは王宏源、李光金、蒋春余、許嘉璐、胡懐帮、王三運、何志平のいずれも江沢民、曽慶紅との人脈がある。
10月27日の米国メディア、ナショナルインパルスが公開したハンターの電話録音の音声では、ハンターが何志平のことを中国のスパイ、と呼んでいる。
何志平の上司に当たる葉簡明のこともスパイと認識していたとみられている。
江沢民の懐刀として暗躍した曽慶紅は、江沢民政権時代から胡錦涛政権時代にかけて国家安全部を牛耳っていた中国インテリジェンスのラスボスとみられていた。
中共は今に至るまで、各国に工作員を派遣し、海外の世論誘導工作、要人への金銭工作、そして性接待など色仕掛けの工作を行っている、といわれており、こうした工作を称して「藍金黄」と呼ばれている。
2017年11月18日、何志平はニューヨークで逮捕された。
葉簡明は2018年2月に中国当局に身柄拘束された。
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