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【三橋貴明 緊急寄稿①】「国家が国民を守らない国」で、どう生き延びるか?
グローバリズムの猛威の中で衰退する日本
三橋 貴明
2020.06.30
この6月に新刊『自民党の消滅』を上梓した、経世論研究所所長の三橋貴明氏が緊急寄稿。黒川検事長定年延長問題、河井前法相献金問題などに揺れ、危機的な状況にある自民党の行末を本書で考察し、日本の民主制についても鋭く言及した同氏が、コロナ危機を経て深刻化した日本のデフレーションについて解説し、巷にあふれる「自己責任論」について一考を投じる。
グローバリズムのトリニティが日本をぶっ壊す
現在の世界は、日本を含め「第二次世界恐慌」の最中にあると理解しなければならない。
第一次世界恐慌(一般には「世界大恐慌」)とは、1929年のアメリカNY株式大暴落という「バブル崩壊」と、フーバー政権の緊縮財政によるアメリカ経済「超」デフレ化、そしてその後の世界への伝播という一連の経済危機である。「超」デフレ化により、失業者が激増し、所得を失った国民が消費を減らし、需要が縮小していく。需要縮小を受け、企業は設備投資を「ゼロ」にまで絞り込み、経済の供給能力が削減されていく。最終的には、GDPが「数割減る」という破滅的な状況に至る。ちなみに、大恐慌期のアメリカのGDPは、ピーク(1929年)から44%(1933年)も減ってしまった。
恐慌とは「超」デフレーション。つまりは、国民経済における「需要」が極端に減少する現象だ。需要が減れば、企業は製品・サービス価格を引き下げ、働き手の所得が減る。もしくは、失業して「所得消滅」となる。給料が減った人や、失業者は消費を抑制するため、さらに需要が減ってしまう。この悪循環が、延々と続くのが「恐慌」だ。
恐慌から脱するためには、誰かが消費、投資という需要を拡大する必要がある。要は、おカネを使えという話だが、民間が恐慌やデフレ期に支出を拡大するのは困難だ。何しろ、所得が縮小、消滅していっている以上、民間は支出を絞り込むことが合理的になってしまう。そして、人々や企業が「合理的」に支出を減らしていくと、恐慌、デフレが悪化していく。いわゆる「合成の誤謬」だ。
となると、非合理的に支出を拡大することが可能な主体が必要になるわけだが、まさにそれこそが「国家」なのである。
さて、人類は歴史的に政策を巡り「二派」に分かれて政争を繰り広げてきた。右翼、左翼の対立ではない。
「国家の重要性を否定し、政府の機能をひたすら小さくすることを求めるグローバリズム」
と、
「国家の重要性を肯定し、国民の経世済民実現のために政府を機能させようとするナショナリズム」
の二派である。
ちなみに、上記の争いについて「小さな政府 対 大きな政府」と表現する人がいるが、間違っている。正しくは「小さな政府 対 機能的な政府」である。
ナショナリズムに基づき、国民が豊かに、安全に暮らせることを目指す「経世済民」の勢力は、政府の大小にはこだわらない。必要があれば、政府の機能を拡大し、必要があれば小さくすればいいと考えるのだ。つまりは、「機能的」。
対するグローバリズムは、「常に」政府の機能を小さくすることを求める。具体的な政策は、政府の支出削減や増税により財政均衡を目指す「緊縮財政」、公共サービスの民営化や安全保障関連業の参入障壁を撤廃する「規制緩和」、そして国境を引き下げ、規制緩和を外資にも開放する「自由貿易」の三つだ。緊縮財政、規制緩和、自由貿易の三つは、必ず同時に進められるため、筆者はグローバリズムのトリニティ(三位一体)と呼んでいる。
例えば、水道の民営化を例にとろう。緊縮財政により、地方自治体の財政が悪化。各自治体が水道サービスを維持不可能なところに「追い込み」、その上で水道民営化を推進。「水」という安全保障の肝となる財・サービス分野において、民間ビジネスの新規参入を促進し、企業や投資家などが儲かる環境を提供する。そしてその際に、もちろん外資制限は設けない。緊縮財政、規制緩和、自由貿易の合わせ技だ。
あるいは、医療サービス。緊縮財政で、病院、医師・看護師、病床数を減らし、公的医療保険の適用を絞り込む。その上で、保険が適用できない自由診療の拡大という規制緩和も実施。さらには、外資制限がないため、やがて我が国に悪名高きアメリカの民間医療保険会社が雪崩れ込み、ぼろ儲けするというスキームだ。
現在の与党である自民党は、元々は確かに「国民政党」ということで、ナショナリズム的な色が濃かった。とはいえ、日本の元祖「小さな政府主義者」であった大平正芳の内閣以降、中曽根内閣、橋下内閣、小泉内閣と、グローバリズムに染まった政権が各種の「改革」を強行。
そして、日本におけるグローバリズムの完成者として成立したのが、第二次安倍政権なのである。
■コロナ禍とデフレは自己責任論で対処できない
ここで改めて、2012年末の第二次安倍政権発足以降、推進されてきた政策を分類してみよう。
1. 緊縮財政:プライマリーバランス黒字化目標、新規国債発行減額、消費税増税、公共投資や地方交付税交付金、科学技術予算や教育支出、防衛費、防災費、診療報酬、介護報酬削減、公共病院統廃合、病床の削減。国民の社会保障負担の引き上げ(高齢者の窓口負担引き上げなど)、ふるさと納税ワンストップ特例制度(第二次安倍政権以降に始まったわけではないが、市町村合併や「ふるさと納税」も、中央政府から地方への支出を節約する緊縮財政の一種になる)
2. 規制緩和:労働規制の緩和(派遣社員の拡大、高度プロフェッショナル制度〈残業代ゼロ制度〉等)、コーポレートガバナンス改革、混合診療(患者申し出療養)拡大、水道など公共サービスの民営化、グリホサートの安全基準引き上げ、種子法廃止、農協改革、農地法や農業委員会法の改訂、漁業法改訂、国家戦略特区、電力自由化、民泊や白タクの解禁、シェアリング・エコノミー推進、IR法(カジノ解禁)、法人税減税(「企業への徴税という規制の緩和」という意味で、規制緩和の一部を成す)
3. 自由貿易:TPPや日米FTA、日欧EPAなどの自由貿易協定、出入国管理法改訂による移民受け入れ拡大、観光業のインバウンド(外国人観光客)依存推進のためのビザ緩和、外国人の土地購入推進
改めて列挙すると、安倍政権下で実に多種多様なグローバリズムの政策が進められたことが理解でき、愕然とする。まさに「国家破壊」だ。あるいは、政府の機能をひたすら小さくする「国家の店じまい」である。
現在の自民党路線が続く限り、我が国ではひたすらグローバリズムのトリニティが繰り返され、政府の機能は最小化されていく。結果的に、非常事態発生時、いや平時においても「国家が国民を守らない」国へと落ちぶれることになる。
それにも関わらず、国民の多くは冷戦時代の遺物である「右だ、左だ」のくだらない争いに気を取られ、裏で安倍政権が国家の機能を削減していっていることに気が付かない。あるいは「問題」として認識していない。
それどころか、国民自ら「自己責任」というおぞましい言葉を礼賛しているわけだから、呆れ返るしかない。自己責任とは、政治の放棄そのものだ。自己責任論がまかり通るならば、国家はいらない。
コロナ禍で所得を失った国民が貧窮する、地方が衰退する、企業が倒産する。これらは「自己責任」なのか。絶対に違う。
コロナ禍という疫病と、恐慌という二つの災厄に襲われた我が国は、早急に政治を「ナショナリズム(あるいは、反・グローバリズム)」へと転換しなければならない。緊縮財政、規制緩和、自由貿易というトリニティを、今からでも「真逆」へと転換するのだ。
さもなければ、我が国はこのままグローバリズムの猛威の中で衰退し、将来的には、
「かつて経済大国と呼ばれた、アジアの劣等国」
へと落ちぶれていくことになるだろう。
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