#日本経済新聞 #鶴光太郎 - AI,人間の敵ではない

2020/1/20付  「朝刊 日本経済新聞」様よりシェア、掲載。ありがとうございます。感謝です。

AI、人間の敵ではない 鶴光太郎 慶大教授

ポイント

○AIが雇用を奪うという悲観論がまん延

○ロボットの影響も産業や労働者で異なる

○現実のデータによる実証分析を待つべき

2020年代の幕開けに立ち、今後10年間の経済を展望すると、新たな技術の影響は計り知れないほど大きい。英エコノミスト誌(19年12月21日号)が指摘するように、「テクノ・ペシミズム」と呼ばれる悲観論が根強いことも確かだ。その典型が、人工知能(AI)により人間の雇用が奪われてしまうという話だ。しかし、こうした議論こそ、証拠に基づいた厳密な検討が必要だ。

まず、悲観論の基になる研究としては、英オックスフォード大学のカール・フレイ氏らの研究が有名だ。今後20年間で米国の労働の47%がコンピューター(AI=機械学習と移動ロボット)化され、代替される可能性が高いという分析は世界に衝撃を与えた。

しかし、彼らの試算にはいくつか問題点がある。独欧州経済研究センターのメラニー・アルンツ教授らは、フレイ氏らが同質と仮定した各職業の中の業務に対し、多様さ、異質性を考慮して同様の分析を行うと、代替される可能性の高い労働の割合は、同質性を仮定した場合の38%から9%へ減少することを示した。

新たな技術の影響を考える際、AIとロボットを同じように考えるのは適切ではない。確かに両者は一体的に運用され、自動化と捉えられることが多い。ロボットはもちろん自動化の典型例であるが、AI、特にディープラーニング(深層学習)を含む機械学習の本質は、カナダ・トロント大学のアジェイ・アグラワル教授らが著書「予測マシンの世紀」で強調したように、ビッグデータであるインプットから目的であるアウトプットを求める「予測」と理解すべきだ。AIを人間に限りなく近づくロボットと考えてしまうと、雇用代替への懸念は果てしなく大きくなってしまう。

さらに、フレイ氏らの分析は70の職業に対し、コンピューター化で労働が代替されるか否かに関する専門家の主観的な予想・判断を基礎としている。したがって、より証拠に基づいた議論を行うためには、現実(過去)のデータを使った実証分析が重要となる。

新たな技術の雇用への影響に関する実証分析はこれまでのところ、ほとんどがロボット利用の影響に集中している。その先駆けとなる米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授らの米国を対象とした分析は、地域別にみて1千人当たりロボット1台の増加は、雇用人口比率を0.2%、賃金を0.42%引き下げるなど、ロボット利用の進んでいる地域ほど雇用や賃金が減少することを示した。

また欧州6カ国に対し、同じ手法を使ったブリュッセル欧州世界経済研究所のゲオルギオス・ペテロプロス氏らの分析は、1千人当たりロボット1台の増加は当該地域の雇用人口比率を0.16~0.2%引き下げ、米国と同程度の負の効果があることを示した。中程度の教育レベル、若年労働者への影響は大きいものの、賃金への有意な影響はみられなかった。

一方、同様の手法をドイツに適用した独ヴュルツブルク大学のウォルフガング・ダウス助教授らは、ロボット利用の負の影響は賃金にあり、雇用全体にはみられないことを示した。製造業の雇用が若年労働者の新規入職に集中して減少したが、サービス産業の雇用増加がそれを上回ったためである。ロボット利用がより進んだ地域の労働者はむしろ同じ職場にとどまる傾向が強いことがわかった。

コペンハーゲン・ビジネススクールのカーチャ・マン助教授らはロボット利用ではなく自動化に関わる特許の産業別利用度に着目し、米国の地域別のパネルデータにおいても、自動化特許増加は、当該地域の雇用人口比率を増加させることを示した。

これらの実証分析は、地域別にロボットの利用度と雇用、賃金への関係に着目したため、分析がやや粗くなっているという問題がある。そこで、まだわずかではあるが企業別のデータを使った分析を見てみよう。オランダの企業別データを使った米ボストン大学のジェームズ・ベッセン氏らの分析は、ロボットなど自動化への企業支出は、年間の就業日数を減少させた後、既存の雇用者の離職確率を高めるが、賃金率には影響しないことを見出した。

他方、カナダの企業別データを使ったカナダ統計局のジェイ・ディクソン氏らの分析は、ロボット利用はむしろ雇用全体を増加させることを示した。中身をみると、管理職の入職減、離職増、非管理職の入職増、離職増となり、従業員の訓練や生産技術に関する管理職の意思決定の削減にロボット投資が関連していた。

スペインの企業別データを使った独バイロイト大学のミハエル・コッホ氏らの分析も、ロボット利用は4年以内で5~7%の労働コスト比率の引き下げ、10%の雇用の純増をもたらすことを示した。ロボットを使わない企業の雇用喪失は、使う企業より大きかった。

以上から、現時点では、対象国や対象データによってロボット利用の雇用、賃金の効果は異なることが分かる。労働者のタイプを絞っていけば、ロボット利用の影響は否定できないが、雇用全体には必ずしも負になるとは限らない。労働代替効果がかなり大きいと想定されるロボットの場合でも、雇用への影響を過度に悲観すべきではない。AIについては、その本質である「予測」は人間の労働とより補完的な関係になれる可能性があるため、悲観論はさらに後退しうる。

AIに特化した実証分析はわずかであるが、MITのエリック・ブリニョルフソン教授らは米国の職業を構成する業務に対し機械学習がどの程度適用されやすいかを数値で評価し、それを集計した職業レベルの機械学習適用度と、賃金関係指標との間の相関関係は、かなり低いことを明らかにした。米ネバダ大学のフランク・フォッセン助教授らは11~17年の米国の個人レベルのデータを使い、機械学習適用度は賃金変化率や失業確率には有意に影響を与えないことを見出した。

また、米プリンストン大学のエドワード・フェルテン教授らが開発した職業別のAIの発展度合い(10~15年)は、逆に有意に賃金を上昇させるとともに、失業確率を低下させることが分かった。

AIに特化した実証分析は緒についたばかりであるが、今のところ雇用や賃金への悪影響はみられない。ブリニョルフソン教授らは前述の論文で、職業はいくつかの業務で構成されており、AI=機械学習に代替される程度のバラツキは、業務の方がかなり大きいと強調した。

その上で、AIはロボットなどこれまでの自動化とは大きく異なる技術であり、業務ごとへの影響も相当異なるため、これまでの自動化のように多くの職業を丸々、完全に代替する可能性は大きくないと論じている。人間とAIは、補完的関係構築をどこまでも目指していくべきだろう。


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