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境 真良(さかい まさよし) Masayoshi Sakai
国際大学GLOCOM客員研究員、経済産業省国際戦略情報分析官(情報産業)
1968年東京都生まれ。学生時代よりゲームデザイナー、ライターとして活動し、1993年に東京大学を卒業、通商産業省に入省。経済産業省メディアコンテンツ課の起ち上げに課長補佐として参画。その後、東京国際映画祭事務局長、早稲田大学大学院客員准教授、(株)ドワンゴ等を経て、現職。専門分野はIT、コンテンツ、アイドル等に関する産業と制度。TwitterID:@sakaima。著書に『テレビ進化論』(講談社、2008年)、『Kindleショック』(ソフトバンククリエイティブ、2010年)『アイドル国富論』(東洋経済新報社、2014年)ほか。モノノフ。
「アイドル」がビジネスに効く5つの理由
日本経済の動向とアイドルブームに、驚きの関係があることをご存じだろうか? 1980年代アイドルから現代アイドルまでを丹念に振り返れば、この国の今、そして未来までもが見えてくる。アイドルを知ることはもうほとんど、デキるビジネスマンの、少なくとも残念なビジネスマンにならないための必須条件なのである。
この連載は、「そんなことは信じられない」「バカバカしい」「アイドルに興味などない」と思うあなたにこそ伝えたいアイドルの基礎知識をつづる、あるいは、アイドルへの再入門のための連載である。
まず、どうしてビジネスマンがアイドルを学ぶべきなのかを、5つの理由から説明していく。
先日、『アイドル国富論』という風変わりなタイトルの本を上梓させていただいたところ、担当編集さんから東洋経済ONLINEでも書いてくださいよ、と言われたので、頭を悩ましております(苦笑)。
書きたいことはだいたいこの『アイドル国富論』に書いた。そんでいまさらWEB版ですかー???!!! という気もしなくはなかったのだが、よく考えてみると『アイドル国富論』というタイトルそのものが要説明物件なような気がしたので、あえて『もうひとつのアイドル国富論』を書くつもりでお引き受けすることにしました。
とはいえ、「アイドル」と「国富論」の組み合わせは奇妙に見えると思います。『国富論』と言えば古典派経済学の教科書とも言うべき名著ですし、「アイドル」と言えばちょっと奇妙な衣装で歌い踊る少女たち(最近はグループが多いので)で、この2つは何ともミスマッチ。
しかし、アダム=スミスが『国富論』とともに、『道徳感情論』という本の著者でもあることはご存じでしょうか?
経済学は、煎じ詰めれば、人の活動の諸法則を、それが金銭をいかに獲得するかのゲームと考えることで解明しようという学問です。しかし、アダム=スミスもわかっていたように、人間の行動原理は収入の最大化だけではありません。人は感情の動物であり、どう働くか、何を消費するか、そうした選択は感情の支配下で行われます。両者を止揚(アウフヘーベン)しようとするところに、感情の制御指針としての道徳論も、そのかぎりで合理的な経済論も論じられるわけです。こうした感情論も加味した経済活動の分析は、長い間、「経済学」よりも「経営学」の方が真摯に取り組んできたのかもしれません。
アイドル国富論いう言葉の中には、「アイドル」を通じて社会心理を考えながら、それを前提とした合理的な経済運営の方向性を考える「国富論」であろうという思いがあります。そして、それは単に政治家や官僚のために書いたものではなく、いえ、むしろ、日々、仕事に邁進しているビジネスマンのために書いた本でもあります。
あらゆる社会現象は社会の動きを反映している!
おそらく、読者の中には、「アイドル」なんてバカげたもので何がわかるのかとお思いの方も多いでしょうし、逆に、自分がまだ10代や20代の頃にアイドル時代を経験しているからこそ、アイドルのことなんて他人に教えてもらう必要はない、という向きもいると思います。
そうかもしれません。でも、ちょっと反論させてください。
まず、あらゆる社会現象はその向こうにある社会の動きを反映したもので、バカにすることはできません。別に『妖怪ウォッチ国富論』とか『ニコニコ動画国富論』とかを書いてもいいのですが(というと編集さんから書けと言われそうで困るのですが〈苦笑〉)、そうした中でも「アイドル」は格別大きな動きです。
「アイドル戦国時代」というのは2010年の言葉ですが、それから4年、「アイドルの時代」は廃れるどころか、むしろ過熱しています。当時はAKB48かせいぜいモーニング娘。くらいしか知らなかったオジサンたちも、今やSKE、MNB、HKTといったAKB48の姉妹グループや、ももいろクローバーZ、さらにはでんぱ組.INC、「千年に一人の逸材」と呼ばれた橋本環奈を擁するRev.from DVL、レディー・ガガもオープニングアクトに指名したBABY METALなど、さまざまな名前を耳にしていると思います。もちろん、ジャニーズをはじめとした男性アイドルも健在です。
そして、このアイドルが、1980年代の私たちオジサンが若い頃応援していたアイドルとはまた違うのです。圧倒的に元気、圧倒的に高いダンス能力、圧倒的にうまい歌(これは人によります)で、まぁ80年代のおニャン子クラブとは雲泥の差なのです。
はっきり言います。40代以上のオジサンは、あえて現代のアイドルにはまらないかぎり、現代のアイドルはわかっていません。そして、現代のアイドルがわからなければ、40代としてちゃんとした仕事はできません(40代より上の年代の人ならなおのことです!)。
その理由を4つにまとめてみます。
1:消費者心理をわからずにビジネスはできない
まず、これに尽きるでしょう。あらゆる「ビジネス」は、最終消費者の購入をゴールとする産業活動の連鎖です。消費者が買わなければどんなビジネスも失敗です。
いや、部品産業には関係ないとか、そもそも上司にどう気に入られるかのほうが大事だという人もいるかもしれません。でも、取引先が成功しないと受注も増えませんし、会社が傾けば上司に気に入られても意味がありません。結局、消費者心理が神様なわけです。
その消費者が、アイドルを選んでいるわけですから、アイドルの向こうに消費者の心理構造を読み解かなければ、ビジネスマンとしては失格です。
2:労働者心理をわからずにマネジメントはできない
次に、今やアイドルファンは10代の若者や、20代のニートやフリーターに限らず、あなたの職場にも社員として多くいるはずです。40代ともなると管理職や現場リーダーも多いと思いますが、彼らの気持ちがわからないで管理はできません。
だいたい、今の若い社員は、雇用の安定や、会社という共同体意識の鼓舞なんてオジサン的アメとムチには、うまく反応してくれません。だからこそ、今や、若手が辞めたり、病んだりは日常的な風景になったわけです。事態の改善には、何より彼らの心理構造を理解する必要があります。それから顔を背けて、モーレツ主義を振りかざして職場をブラック化してはマネジャー失格です。
3:物語の構築法をわからずに商品開発はできない
今や、商品要素を自社内で完全内製化できる時代ではなく、他社商品との差別化は極めて難しい時代です。その中で差別化をなしうるカギが、「物語」です。
たとえスペックは似たような商品でも、それに「物語」をまとわせることで差別化は可能です。同じサンマでも、「三陸産」という事情が東日本大震災からの復興という物語をまとうように、あらゆる商品やサービスにまつわる事情が「物語」の可能性をはらんでいます。
成功した現代アイドルは「物語」をつねに武器にしています。
4:「消費者の物語」をわからずにマーケティングはできない
とはいえ、もちろん、すべての消費者の心に刺さる物語などあるはずがありません。ひとつの物語がつかみ取れる顧客の数には限界があります。しかし、ならば、その限界を乗り越え、最大化する方法があります。
それは、単に作り手が消費者に押しつけるのではなく、消費者自身に自分の物語を見いださせることです。人は、自分が作り出した幻影としての物語と、商品そのものの物語を区別できない動物です。
成功した現代アイドルには、この消費者に自らの物語を作り出させる、物語のメタ構造がきちんとデザインできています。現代アイドルを正しく理解することで、このビジネスマンとして当然、知っておくべき4つの重要なポイントを理解することができます。
「あまちゃん」の成功は偶然ではない!
そして、ここにもうひとつ、重要な点を加えたいと思います。それは、「アイドル」が戦後日本社会を貫く大きな「軸」だということです。それを端的に示してくれたのが、2013年の「あまちゃん」の成功です。
「あまちゃん」は、アイドルを目指す現代の少女の物語ですが、それは1980年代にアイドルを目指した少女である母と、1960年代に地元のアイドルだった少女である祖母と、3世代の物語が時空を超えて相関した複雑な日本史でもあります。「あまちゃん」が性別や世代を超えて大きな共感を得たということは、私たちが戦後日本史を「アイドルの社会史」として理解しているということです。つまり、「アイドル」には「今」だけではなく、戦後日本を貫く社会意識が投影されているのだ、と言えるでしょう。
①現代消費者心理を考えること
②現代労働者心理を考えること
③「物語」の構築法を考えること
④消費者に「物語」を作らせる方法を考えること
⑤戦後日本の目指してきたものを考えること
この5つのポイントを考えるために、アイドルのことをまじめに考えてみませんか?
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