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「緊急事態宣言は効果なし!」舛添要一が安倍政権“新型コロナ”無策を痛烈批判
“前都知事・元厚労大臣”は「初動の遅れは致命傷」と指摘する
「文藝春秋」編集部
source : 文藝春秋 2020年5月号
genre : ニュース, 社会, 政治, 国際, 経済, 医療
4月7日、安倍政権は新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて緊急事態宣言を発令した。
これにより各自治体が相次いで住民の外出自粛や飲食店等への営業自粛を要請。
経済に影響が出始めている。
だが、それとは裏腹に感染者数は右肩上がりで増え続け、ついに国内感染者数は9200人を超えた。
とりわけ首都東京の感染者数は急激に伸びており、2700人を突破した(※4月17日時点)。
こうした中、政府と東京都の新型コロナ対策への批判を強めているのが、前東京都知事で元厚労大臣の舛添要一氏(71)だ。
舛添氏は、現在発売中の「文藝春秋」5月号に「安倍官邸『無能な役人』の罪と罰」を寄稿。
安倍政権の初動の遅れを指摘している。
厚労行政と都政に精通する舛添氏は、今回の緊急事態宣言発令に至る政府と都の意思決定プロセスをどう見ているのだろうか。
――4月7日に緊急事態宣言が発令されて1週間が経過しました。
舛添 私は極めて少数派だと思いますが、「緊急事態宣言はやる意味がない」と考えています。
今更やったところで、感染の封じ込めに効果はないだろう、と。
安倍政権は、なぜ緊急事態宣言をしたのでしょうか。
それは、新型コロナウイルス対応の初動の遅れを取り戻そうとしたからに他なりません。
新型コロナウイルスは、昨年12月8日に武漢で発生しました。日本で初めて感染者が出たのは今年1月15日。
しかし、専門家会議の立ち上げなど、政府が手を打ったのは2月に入ってからでした。
すなわち1カ月以上何もしていなかったわけです。
致命的だったのは「PCR検査の不徹底」
舛添 安倍政権の初動の失策は、大きく2つあります。
第一には、感染者を症状別に応対する「トリアージ」をしなかったこと。
本来であれば、最初から重症者は感染症の指定病院、中くらいの人は普通の病院、軽症者はホテル……といった具合に、症状別に隔離して対処にあたるべきでした。
隔離施設としては五輪の選手村だって空いている。
しかし、それをやりませんでした。
2つ目が、PCR検査を徹底してやらなかったこと。
これが致命的でした。
感染者の実態が掴めなくなってしまったからです。
少し前、安倍応援団のネトウヨを中心に
「PCR検査をしたらイタリアみたいになって医療体制が崩壊する」
「それ見ろ。韓国はPCR検査をやって感染者が増えているじゃないか」
という言説が出回りました。
私はこれはまったくの嘘だ、PCR検査はすぐにでも徹底的にやるべきだ、と主張していました。
しかし、政府はPCR検査をやってきませんでした。
ここにきて、PCR検査をやることがいかに重要かが明らかになりつつあります。
日毎の感染者数に一喜一憂しても意味がない
舛添 アメリカとイタリアでは死者が急増していますよね。
一方、ドイツでは死者が抑えられている。
この明暗を分けた差は何だと思いますか。
ドイツの医療体制が頑強だということもありますが、最大の要因はアメリカ・イタリアはPCR検査をちゃんとしておらず、ドイツは初動から徹底的にやっていたということなのです。
ところが日本は、今この段階に来ても、PCR検査を受けるためには時間がかかっているという。
感染が確認された森三中の黒沢かずこさんが良い例です。
「検査を受けたい」と言っても、受けさせてもらえなかったといいます。
こんなことは、あり得ないことです。
今、日本人は、日毎の感染者数で一喜一憂していますよね。
今日は100人超えた、今日は100人下回った、と。
しかし、これは全く意味がありません。
単に検査数に比例しているだけなので、感染者の実態が把握できていない。
日本はまさに今、アメリカとイタリアの轍を踏むかもしれないのです。
さすがにこうした初動の遅れが致命的なミスであると政府も気づいたのでしょう。
4月に入り、慌てて緊急事態宣言を出しました。
緊急事態宣言と一斉休校は“北海道のマネ”
――なぜ、政権内で「緊急事態宣言をする」という案が浮上してきたのでしょうか。
舛添 2月末、感染者が急増した北海道で鈴木直道知事が緊急事態宣言と一斉休校を打ち出し、急増していた感染者を封じ込めました。政府の緊急事態宣言は、これを模したものだろうと私は見ています。
安倍政権が北海道の対応を参考にしているのは間違いありません。
2月27日に安倍首相が唐突に3月中の全国一斉休校を発表しましたが、これは明らかに北海道ケースがうまくいったことを意識したものでした。
鈴木北海道知事は今回の対応で相当、評判を上げました。
安倍政権は支持率を上げるために「この方法は使えるな」と判断したのでしょう。
――緊急事態宣言をすると、政府は何ができるようになるのでしょうか。
舛添 自粛要請が出せるようになるくらいで、政府ができることは、出そうが出すまいが実はほとんど変わりません。
緊急事態宣言を出せるようにするために、政府は新型インフル特措法を改正しました。私はこの改正法自体、必要なかったと考えています。
そもそも、緊急事態宣言なんて既存の新型インフル特措法の解釈を変えればできることです。
もっと言えば、法的根拠がなくたって、リーダーが「今は緊急事態です」と国民に語りかけるだけで意味がある。
先に給付と補償を決めておくべきだった
舛添 ところが、おそらく安倍首相の秘書官が「法律がないとできませんよ」と囁いたのでしょう。
だから改正法という案が出てきたわけです。
法律を変えれば、「せっかく“伝家の宝刀”を作ったのだからこれを使わないといけないな」となる。
それで緊急事態宣言をするに至った。
緊急事態宣言なんかをする前に、もっとやるべきことはたくさんありました。
まさにトリアージやPCR検査などがそう。
これらは緊急事態宣言をしなくてもできることでしょう。
法律を変えることが大切なのか、国民の命を守ることが大切なのか。
安倍政権がやっていることは、まったくもって本末転倒です。
――緊急事態宣言による自粛要請は、経済へ与える影響が大きいと思われます。
舛添 自粛要請によって、日本経済は危機に陥るでしょう。
すでに倒産した企業がいくつか出ていますし、失業者も今後増えていく。
政府は「108兆円の緊急経済対策を打つ」と自信満々に言っていますが、実はそのうち真水はわずか39兆円。
GDPの1割にも満たない金額ですから、効果はほとんど期待できないでしょう。
さらに最近になって与党間で「1世帯30万円給付」とか「一律10万円給付」などと議論がなされています。
これは果たして自粛要請をした後に悠長にする議論でしょうか。
すでに営業できなくなり、食っていけなくなる人が出ているんですよ。
本当に国民のことを考えるのであれば、給付や補償の話を決めてから緊急事態宣言をするべきでした。
トランプのコロナ対策は何が間違いだったか?
――各国の状況はどうでしょうか。たとえば、アメリカは3月13日に国家非常事態宣言を出しました。
舛添 アメリカの新型コロナの対応は後手後手に回っています。あっという間に感染者数は世界一になってしまいました。
アメリカと日本の状況は、非常に近いと思います。
トランプ大統領は、何がダメだったのでしょうか。
ひとことで言うならば、感染症対策に政治的イデオロギーを持ち込んでいることだと思います。
感染症対策は、科学・医学・疫学でやるべきで、イデオロギーは絶対に持ち込んではならない。そのタブーを犯したから失敗したのだと思います。
「オバマケアは廃止する」「民主党時代のものは負の遺産」
トランプは一貫してこう言っています。
今回の新型コロナ問題で、オバマケア廃止により無保険者が増加傾向にあることは、事態を悪化させています。
だがそれを認めようとはしません。
そして、今回の新型コロナに関しても、3月10日の段階で
「たいしたことではない。すぐに終息する」などとタカを括っていました。
ところが、感染が拡大してくると「チャイナ・ウイルス」と差別的な発言をしたり、WHOを非難したり、責任転嫁をするような言動に出ています。
中国と韓国を参考にしなかった安倍政権
舛添 安倍政権の対応にも、トランプ氏と似た部分があるのではないか。
私はそう思えてなりません。
とりわけ中国や韓国の新型コロナ対応への視線にそれを感じます。私は、彼らには見習う部分は多いと思います。
たとえば韓国はかなり初期からPCR検査を徹底的にやり、ドライブスルーで受けられるような体制を整えました。
その結果、直近では1日の感染者数が30人を切るところまで押さえ込むことに成功していますし、何よりもPCR検査を徹底したことで、感染経路不明者がわずか2%台です。
中国は発生源の国でもあるのだから症例の宝庫です。これを使わない手はないはずです。
ところが、安倍政権は隣国の知見を一切参考にしませんでした。
イデオロギー的に中国・韓国が好きではないのは、別に構いません。
しかし今はそんなことで物事を判断している場合ではない。
使える部分は使うべきでした。
結局、ただ無策を重ね、挙げ句の果てには感染者数が増えて慌てふためき緊急事態宣言を出したというわけです。
ドイツとイギリスは“緊急事態宣言”など出していない
舛添 欧州に目を向けても、たとえばドイツやイギリスは、そもそも緊急事態宣言など出していません。
ジョンソン英首相、メルケル独首相は当初、集団免疫論に基づいて終息させようと判断しました。
私も最終的な解決手段は、集団免疫論だと思っています。1つの集団(国家)の中で、6、7割の人が免疫をもてば、それが鉄壁になって封じ込める、という考えです。
分かりやすくいうならば、ワクチンの完成までは時間がかかるから現実的手段として「気がつかないうちに感染して治っちゃった」という人を増やせばいいのではないか、ということです。
ジョンソン氏もメルケル氏も、当初はその理論でいこうとしたのです。
しかし理論としては正しいけど、最終的には「それはやめよう」という政治判断を下しました。疫学理論をしっかり学び、それを基に方針転換をしたわけです。
行き当たりばったりの政策を続ける安倍政権、そしてコロナウイルスを甘く見ていたトランプ政権とは雲泥の差です。
繰り返しますが、この優秀なリーダーが率いる2つの国は緊急事態宣言を出していません。
しかし、打つべき手はちゃんと打っている。日本は見習うべきではないでしょうか。
元凶は取り巻きの「官邸官僚」たち
――政策には、官僚が密接に関わっています。
舛添さんは、「文藝春秋」5月号掲載の記事で、新型コロナウイルス対応における官僚の責任を追及されていました。
安倍政権と官僚の関係の問題点はどこにあると見ますか。
舛添 今回のコロナ対応が失敗した元凶は、間違いなく「官邸官僚」つまり、安倍首相の取り巻きの官僚たちだと私は考えています。
たとえば、首相補佐官の今井尚哉氏(経済産業省)、和泉洋人氏(国土交通省)などは、第二次安倍政権の発足時からずっと官邸に居座っています。
なんだかんだ言って、首相をはじめ国会議員は選挙の洗礼を受けていますから、あまり無茶苦茶な政策はしないんです。
それなりのブレーキがちゃんとかかる。
ところが、彼らは違う。それがないから、完全な「独裁」になる。
しかも、5年も6年も総理の側にいるわけで、並の閣僚など見下しているわけです。
そんな連中が、外界と断絶した“孤島”の官邸にいるわけですから、世間の感覚がわからなくなって当たり前です。
「アベノマスク2枚」がそれを象徴しています。
1世帯2枚でなんとかしろ、と言われても普通の家庭は困惑しますよね。
さらに安倍首相は4月12日、ツイッターにミュージシャンの星野源さんの音楽に合わせて自分が寛ぐ動画をアップしましたよね。
これもおそらく官邸官僚のアイデアでしょうが、自宅にいたくても仕事に行かざるを得ない人たちへの配慮が全くありませんでした。徹底的にズレている。
むしろ今、打ち出すべきは、クオモNY州知事のように、不眠不休で働く政治リーダーの姿、必死に戦う姿であるべきです。
しかし、官邸官僚は、もはや“普通の感覚”がわからなくなってしまったのでしょう。
「絶対的な権力は、絶対に腐敗する」
今回のコロナ危機は、奇しくも歴史家のジョン・アクトンが残したこの言葉の通り、官邸の感覚がいかに国民とずれているかということをあぶり出したのでした。
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