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WOMEN 2019/02/28 16:30
ツフィット・ヘリング(Tzufit Herling)◎社会起業家。
起業家たちのコミュニティー形成にも情熱を傾ける。「フォーブス・イスラエル」のコントリビューティングライターも務めていた。
サイバーセキュリティ先進国イスラエルから、日本が受けたい「恩恵」
イスラエルが「世界最先端の技術力を持つ国」と言われるようになって久しい。
たとえばイスラエル在住の若者の一部にはイスラエル国防軍(IDF)での兵役が義務づけられるが、中でもとくに優秀な人材の兵役期間中の主要任務が、IT分野、とくにサイバーセキュリティの研究開発であることはすでに知られている。
同国の兵役システムは、サイバー攻撃に対する迎撃ソリューション開発分野のスタートアップをインキュベートしているともいえる。実際、国内サイバーセキュリティ分野でのスタートアップは2015年には81社、2016年には83社にのぼったという。
「イスラエルのVC投資額はGDPベースで米国を抑え、世界一位」というOECDのデータも、「起業大国」イスラエルを裏付けている。
そういった背景もあり、同国には技術力の高いベンチャー企業が多い。そのため、イスラエルには近年、日本企業による投資が急拡大している。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、イスラエル進出企業数は2017年、70社を超えたという。
中でもその2017年、田辺三菱製薬がバイオベンチャーのニューロダーム社を1240億円で買収して話題になったことは記憶に新しい。また、女性起業家アディ・タタルコが夫アロン・コーエンと創業し、2015年には日本でもサービスを開始した「ハウズ(Houzz)」社の躍進など、イスラエル女性の活躍にはみるべきものがある。
イスラエルの社会起業家で、国内の起業家コミュニティー形成にも実績があり、「フォーブス・イスラエル」のコントリビューティング・ライターも務めていたツフィット・ヘリング(Tzufit Herling)氏に、イスラエルと日本の今後の関係について、またイスラエルの女性起業家を取り巻く環境についてメールインタビューした。
「特殊部隊がサイバー起業家をインキュベートする」国家的土壌の強み
──イスラエルと日本の間には2017年10月、投資の自由化に関する協定が発効されました。安倍晋三首相も北朝鮮との関係や2020年オリンピック開催などを視野に、サイバー攻撃対策でのイスラエルとの連携強化を表明しました。日本との関係はどうなっていくのでしょう。
ここ数年、イスラエルと日本の首相が歴史的対面を果たしたり、代表団を派遣し合ったり、ジェトロが「日本・イスラエル・ビジネスフォーラム」や「日本・イスラエルフェスティバル」といった公開討論やイベントを開催したりしました。また「日イスラエル・イノベーション・ネットワーク(JIIN)」が設置されたり、IT活用医療を始めとする数々の分野で合意が締結されたりもして、両国間の距離は目に見えて近くなってきました。
日本には革新的なソリューションを持つイスラエル企業に強い関心を持つ企業や投資家が多くありますし、イスラエルには、自ら規模を拡大し、大規模な新市場への参入を模索している新興企業があります。
両国の文化的な違いはコラボレーションとして大きな成果を生むはずです。
まず、イスラエル人には最先端のアイディアと、失敗にめげずゼロから革新的技術を生み出そうとする気質と能力があります。一方、日本人は長期にわたって組織全体としてのプロセスを確立することに長けていて、経験も豊富です。日本人はプロジェクトをダイナミックに展開する際のプロセスを熟知していますし、比較的クローズドなローカル市場についての理解と、地元企業や投資家との連携に関する経験も豊富です。
今後はサイバーセキュリティ分野のほか、生物化学や運輸、農業、旅行技術などの分野で、両国の継続的な協力が実現していくでしょう。
イスラエルの研究開発分野には多くの関心が集まっていますが、なかでも日本は、イスラエルが提供し得る、実効性に富んだソリューションを求めています。とくに生物化学分野におけるイスラエルの躍進はここ数年で目覚ましいものがあります。2017年には三菱田辺製薬が、パーキンソン病などの研究開発を事業領域とするニューロダーム社を1240億円で買収しましたが、これはイスラエルのヘルスケア企業としては過去最大の買収でした。
サイバーセキュリティの分野での両国の連携は、もちろんより強固になっていくでしょう。
イスラエル国防軍が特殊部隊で次世代のサイバー起業家を育成していること、そしてそれがわが国のサイバーセキュリティ分野における最先端技術の基盤にもなっていることは既知の事実です。日本も、2020年の東京オリンピックに代表される国際的イベント、そして北朝鮮をはじめとする地政学的脅威を視野に入れて、サイバーセキュリティ分野でのソリューションをイスラエルに求めてきています。
運輸分野では、スマート・モビリティとインフラ技術での両国の連携が続くでしょう。また農業でも、IT化、スマート農業におけるモニタリングシステム、高精度化、そして最大効率化に関心が高まっています。
イスラエルの高い技術力は、金融分野でも世界から注目されています。フィンテックの戦略拠点としての期待は高く、たとえば欧米の大手金融機関がイスラエルに集まり始めています。今後、日本からの動きも予測できると思います。
また、他に注目に値するのは旅行技術の分野でしょう。世界各国から日本を訪れる観光客の数が増え続けていますが、イスラエルからの観光客人口も例外ではありません。
この傾向の重要な触媒となるのが、最近、イスラエル・日本間で締結された航空協定です。この協定によって、旅行や商業分野でも連携の機会が増えると思います。具体的には、両政府で討議されていた成田-テルアビブ間の直行チャーター便の運航がこの2019年2月、発表されました。
イスラエル・日本間の連携がもたらす大きな可能性をうまく活用すれば、両国の起業家は、長期的関係から大きな利益を得、成功を手にすることは間違いありません。
インテリアデザインのプラットフォーム「ハウズ」の躍進、そしてデジタルヘルス分野での実績
──それでは、女性起業家を取り巻く状況についてうかがいます。2018年はイスラエルの女性起業家たちにとってどのような年でしたか?
過去数年間は世界中で女性起業家が増えてきました。雇用されて働くことに伴うさまざまな困難やナンセンスに対するソリューションを求める気持ち、あるいはもっと一般的な社会問題と対峙したいというモチベーションが、その根底にあると思います。同時にディシジョンメーカーたちも、経済成長のために、いわゆるダイバーシティーが不可欠であることを理解し始めたのでしょう。
またもちろん、昨年は「Me Too」ムーブメントの年でもあり、その影響は起業の分野をも素通りしませんでした。そう、起業の世界でもセクハラはオープン・シークレットでした。女性起業家たちもセクハラを受けていたのです。
また、国内のビジネスの世界ではまだまだ女性の存在感は弱く、組織におけるグラスシーリングの問題は解消されていません。女性であるというだけで能力や実績が正当に評価されない状況は払拭されていないのです。VCの分野における女性投資家もまだ少数です。
しかし私は、イスラエルの女性起業家が直面するこういった試練の数々は、彼女たちをよりたくましくし、今後待ち受けるハードルに対応可能にするはずと信じています。
イスラエルでは、他国に比べて女性起業家の比率は比較的低いと言えます。イスラエルの女性起業家は、いわゆるオーソドックスな女性的な分野、つまり女性の方が男性よりも得意であるとされるようなサービス分野で起業する傾向があります。
技術的な分野におけるイスラエルの女性の活躍はまだまだですが、デジタルヘルスの分野では増えてきています。高校や大学、社会人学校などでも、女性の起業を奨励するアクティビティが多く見られます。実は女性起業家向けのみならずマイノリティーの人たち向けにも、インクルージョンの取り組みは進んでいます。
起業しようとする女性たちのレベルや目的によって、支援組織もさまざまあります。若い女性にプログラミング教育をしたり、起業体験を提供したりもしています。設立間もないスタートアップをサポートするアクセレーターが、すべての女性たちに均等な機会を提供し、彼女たちの能力を生かそうとしています。
また、技術分野に進出する女性起業家のための共有スペースを提供したり、投資家とのマッチングを設定したり、シリコンバレーのエコシステムのネットワークを紹介したり、女性起業家がネットワークを構築できるフォーラムやコミュニティーを提供したりと、支援の方法も多様です。
こういった動きも大きく手伝って、昨年、女性起業家の成功ストーリーがいくつも誕生しました。新規上場を果たした企業もあります。例えば、女性起業家による最大手のテック企業には「ハウズ」があります。アディ・タタルコが夫のアロン・コーエンと創業し、運営している企業です。
──今年、イスラエルの女性起業家にどのような変化が起きると思いますか? 世界的な視野ではどうでしょう?
女性起業家のプレゼンスはますます大きくなると思います。分野も多岐に渡っていくでしょう。そして、イスラエルの女性起業家はグローバル市場に進出していくと思います。VCも、女性パートナーによるスタートアップをより支援してして行くと思います。つまり、起業家からのボトムアップ、投資家からのトップダウンの双方向で動きは高まっていくはずです。
今年は、イスラエル国内の女性起業家をサポートする組織も勢いを増していくでしょう。国全体の経済状況改善のためにも、女性に起業を奨励し、起業後のビジネス存続のためのスキル取得を支援し、リソース提供をしていくはずです。
こういった状況があるので、起業を選ぶ女性は増えるでしょう。われわれは、女性起業家がどうやって、どういった分野で実績を作っていくかを注視しながら、支援していくつもりです。
女性起業家の成功ストーリーは次世代の女性起業家のモデルになります。分野ごとのサミットや研修プログラム、そしてメディアなどで彼女たちの成功例をシェアすることが重要です。多くの女性が持続可能な企業をスタートアップさせ、成長させていければすばらしいと思います。
【JETRO】シリーズ「IT大国イスラエル」 ‐サイバーセキュリティ技術で日本市場へ‐
世界は今 -JETRO Global Eye
チャンネル登録者数 2.48万人
〔2017年4月12日放送〕
イスラエルのITビジネスの可能性について紹介するシリーズの2回目。兵役でサイバーセキュリティなどの最新技術の開発に携わった優秀な人材がスタートアップ企業を立ち上げることの多い同国は、世界有数の“セキュリティ先進国”だ。一方、日本では、企業等へのサイバー攻撃が頻発するなか、また、オリンピック・パラリンピックの開催を3年後に控え、セキュリティ対策が重要なテーマとなっている。両国の間で始まった連携の取り組みを追った。
同シリーズのこちらの番組も併せてご覧ください。
【JETRO】シリーズ「IT大国イスラエル」 ‐国家戦略で“スタートアップの聖地”に‐(2017年3月1日放送)
https://youtu.be/ovcbo070b2A
過去の動画はこちら ⇒ https://www.jetro.go.jp/tv/
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