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「TikTok For Business」誕生 中小企業支援やクリエイターとのマッチングで新展開も
2020年07月13日 19時00分
TikTokでブランドの声を広げるための新しいプラットフォーム「TikTok For Business」が誕生。運営会社のBytedanceで広告事業のトップを務める西田真樹氏が詳細を語った。
[鈴木朋子,ITmedia マーケティング]
寄稿者紹介
鈴木朋子
すずき・ともこ ITライター。iPhoneの日本発売以来、SNSやアプリなどスマートフォンを主軸にしたサービスを追っており、書籍や雑誌、Webに多くの記事を執筆している。スマホネイティブと呼ばれる十代のIT文化にも詳しい。著書に『今すぐ使えるかんたん文庫 LINE&Facebook&Twitter基本&活用ワザ』(技術評論社)など。
ショートムービーを軸にしたSNSアプリ「TikTok」を運営するByteDanceが、新たなマーケティングプラットフォーム「TikTok For Business」を2020年6月25日にローンチした。端的に言えば、これまで「TikTok Ads」の名前で提供してきたサービスメニューのリブランディングだが、ここで目指すのはオーディエンスと企業やブランドを結び付けて広告の枠組みを超えたコミュニケーションの実現だ。ブランドのタグラインには「Don't make ads. Make TikToks」を掲げている。認知拡大から興味関心の醸成、顧客獲得に至るまで、フルファネルのビジネス課題をTikTokで解決に導くという強い意思が感じられる。
本稿では運営会社のByteDanceで同事業を統括する西田真樹氏が記者向けの説明で語ったサービスの具体的な内容とローンチに至った背景、直近のトピックスについて紹介する。
口パクダンスがメインコンテンツではなくなったTikTok
ビッグネームがひしめくSNS系アプリの中でもTikTokの成長はめざましいものがある。2020年4月にSensor Towerが発表した調査結果によると、iOSとAndroid版のアプリの累計ダウンロード数は20億を突破した。コンテンツの再生数は前年比262%。1日の平均視聴時間も55分と、1年前の42分よりも伸びている。また、「いいね」を押すなどのエンゲージメントについては380%となっており、「よりプラットフォームの質としてもアクティブになっている」と西田氏は説明する。
ユーザー増加に伴い、投稿の内容も変化してきている。2018年は女の子の自撮りや口パク動画、ダンスの投稿が多かったが、現在はハウツーものや日常をクリップするようなコンテンツが増えている。若者のアプリという印象は強いがユーザーの年齢層も30~40代にまで広がっている。
広告でもストレスを感じないのがTikTokの強み
ユーザーが多く集う場にビジネスが引き寄せられていくのは自然な流れだ。時代の文脈を読んだ新しい形のコミュニケーションを求めるのは企業の常でもある。TikTokのような新しい顧客接点への期待は大きい。
TikTokへの期待の裏には、人々の広告観の変化もある。Bytedanceの調査では「広告は信用できない」「マーケティングにだまされたくない」などの声が多く挙がっている。西田氏は、特に若い世代において広告に対する信頼が希薄になっていると指摘する。
「現行の広告フォーマットでは、アドエクスペリエンス(広告を通じた体験)を通じて、かえってブランドを毀損してしまっている。広告のウソや誇大表現に不快感を覚えるユーザーが増えており、広告ブロック機能を使うユーザーも多い。他方で『見ていて楽しくなる広告が好き』『広告はビデオの方がいい』といった声もある。当社が独自で行った主要SNS5社の比較調査では、TikTokは『広告にストレスを感じない』『興味のなかったものが好きになった』などの項目で他社よりスコアが高い。魔法のようなプレースメント(広告の表示場所)を提供できていると思う」(西田氏)
TikTokにおける広告は、縦型全画面を使った通常のコンテンツと同じフォーマットで表示される。そのため、プロダクトの良さや特性が伝わりやすい。広告然とした既存のフォーマットでは、広告に接触するほどブランドへの嫌悪感や不快感を増幅させかねないが、TikTokでは広告もコンテンツの1つとして自然に受け入れられるというのだ。
TikTokの広告効果を高める要素として西田氏はさらに、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)の存在を指摘する。つまりごく普通の人の投稿だ。TikTokの調査では、著名人などのインフルエンサーが発信する情報よりUGCに接触した方が、購入率およびエンゲージメントが高くなっている。広告として始めたキャンペーンであっても、ユーザーが面白がって参加し、友達から友達へ(しかも単にコピーされたコンテンツを再投稿するのではなくオリジナルの投稿として)拡散してくれる。これはTikTokならではの強みだ。
TikTokの代表的な広告メニューには「アプリ起動画面広告」「インフィード広告」「ハッシュタグチャレンジ」などがある。
ハッシュタグチャレンジの事例として西田氏はドミノ・ピザ ジャパンが2020年1月末から実施した「#ドミノチーズ100万」の施策を紹介した。新商品「ウルトラチーズ」のチーズの伸びを表現する動画をハッシュタグと共に投稿し、日給100万円の最高チーズ責任者(1日限定)の座をかけて競うという趣旨だが、動画再生回数は合計で1800万回を超え、完全視聴率も18%近くという好結果が出た。
インフィード広告の事例としては、日本ロレアルの「ROUGE VOLUPTE ROCK’ N SHINE(ルージュ ヴォリュプテ ロックシャイン)」がある。コスメに特化したファッションリーダーを起用し、オリジナルのブランドエフェクト(スタンプ機能)などのテクノロジーやソーシャル機能を駆使することで、エンゲージメントを高めながらブランドパーパスを伝えられた。動画再生数は583万回、ブランドエフェクト体験数も21万に達した。純広告でありながらネイティブのコンテンツ以上に「いいね」やコメントを多数獲得している点も見逃せない。
中小企業支援に新展開
単に広告枠を売るだけでなくブランドが抱える課題を包括的に解決するプラットフォームへと進化したTikTok For Businessだが、クリエイティビティを研ぎ澄ますほどコストも掛かりそうで、マーケティング予算が潤沢でないと、なかなか手が出しづらい印象もある。しかし、実は中小企業に使いやすいサービスも用意されている。それが、2020年4月に提供開始した「TikTok Adsオンラインアカウント」だ。これにより、アカウント開設から最短1日で。「TikTok」「BuzzVideo」をはじめとするBytedanceの媒体とアドネットワーク「Pangle」を介した多数のアプリへの広告配信が可能になる。
Webサイトへの誘導、アプリのインストール、ECサイトでの購入促進など、広告を出稿する目的は企業によって異なる。TikTok Adsオンラインアカウントでは、CPCやCPAなどの目標値を設定するだけで、システムが広告主のサービスと広告の目的に合わせて広告配信を最適化。年齢や性別、エリアなどによるターゲティング配信も可能だ。クリエイティブ制作に関しても、用意された動画作成ツールでWebサイトの情報から半自動的に動画素材を作ったり、動画テンプレートやBGM素材を利用したりできる。
低予算でもTikTok広告を活用できるようになったことは、成長の機会をうかがう元気な中小企業にとって大きなプラスになる。それと同時に、売り上げが低迷する企業が起死回生を図るための武器にもなる。現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で多くの中小企業がかつてない危機に直面している。そうした企業にこそTikTokを使ってほしいところだが、新たな投資をする余裕がない場合もあるだろう。
そこでBytedanceでは、中小企業のビジネス再建に向けて「TikTok企業活動支援再開プログラム」を開始。総額約100億円相当の広告クーポンを提供することを決めた。具体的には、約3万円相当の広告クーポンを無償で付与(1回限り、有効期限2020年12月31日)し、さらに広告出稿のために入金した額と同等のクーポンを提供する(1企業当たり最大21万5000円相当まで)。対象となる中小企業は、TikTok Adsオンラインアカウントの広告マネージャーページにてクーポンを申請して参加することができる。使い方に慣れていない企業に対してはeラーニングやウェビナーなどでサポートする。
クリエイターとのマッチングを強化
フィードになじむネイティブなフォーマットで広告が受け入れられやすいTikTokだが、最終的にはクリエイティブが決め手になるのは言うまでもない。人から人へ、クリエイターの個性が発揮されたコンテンツのリレーでユーザーの熱量を高めていくためには、何よりもまず、ブランドと愛称のいいクリエイターとの出会いが必要だ。
そこで2020年7月9日に提供開始したのが、「TikTok Creator Marketplace(TCM)」だ。TikTokクリエイターと広告主をマッチングする場であり、日本、米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ロシアの14カ国でリリースされている。翻訳機能により、日本から他国のクリエイターをアサインすることも可能だ。
TCMに登録しているクリエイターはグローバルで1万人超。その数は今後も増加予定だ。クリエイターはさまざまなカテゴリーに分類されており、ブランドのトーン&マナーや訴求内容に合ったクリエイターを探すことができる。個々のクリエイターのプロフィールから過去動画のパフォーマンスを確認することも可能だ。これによりプランニングを進め、ふさわしいクリエイターが見つかったら、発注から広告キャンペーンのローンチまで全てをTCM上で管理できる。現在、日本国内ではマッチング機能のみ利用可能だが、今後は報酬の支払いまで行える決済機能を実装する予定だ。
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