備忘録
「ダイヤモンドオンライン」様より
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ありがとうございます。
感謝です。
野口悠紀雄:
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
2019.6.27 5:14
アメリカのSNS提供企業であるフェイスブックは、6月18日、2020年に「リブラ(Libra)」と呼ぶ仮想通貨(暗号資産)のサービスを始めると発表した。
リブラは、電子マネーとは異なるものだし、さまざまな面で従来の仮想通貨より優れた特性を持っている。
このため、現存する金融システムに対する重大な挑戦となる可能性がある。
日本の金融緩和政策も、続けられなくなるかもしれない。
それだけでなく、国家そのものに対する影響さえあり得る。
ブロックチェーンで運営
独自の通貨圏が形成される
リブラの詳細は、ホワイトペーパー(https://libra.org/ja-JP/white-pap)で説明されている。
まず注目すべきは、リブラは、電子マネーではなく、ビットコインやメガバンクが計画中の仮想通貨と同じく仮想通貨であることだ。この違いは重大だ。
アリペイのような電子マネーは、銀行預金のシステムの上に作られている。
これは簡単にいえば、銀行預金の引き落としを簡単に行なうための仕組みにすぎない(スイカ〈Suica〉の場合には、スイカのカードに入れた金額の引き落とし)。
電子マネーを受け取った人が、それを他の支払いに使うことはできない。
だから、既存の金融システムの枠中にあり、それから離れた独自の経済圏を作ることはできない。
それに対して、後で書くように、リブラはブロックチェーンで運営される。したがって既存の金融システムとは関係がない、独自の通貨圏を形成できる。
フェイスブック利用者だけで24億人
あらゆる通貨圏を凌駕する
リブラは、利用者の観点から見ても使いやすい。
低コストで送金・決済ができる。
国境をまたいで送金することも簡単になる。
したがって、利用が広がれば、銀行など既存の金融業界を脅かす可能性がある。送金・決済に大きな影響を与え、銀行に取って代わる巨大な決済インフラとなる可能性がある。
それだけでなく、中央銀行の金融政策に影響を与える可能性もある。場合によっては、国そのものの存立に影響を与える可能性さえある。
具体的にどの程度の規模になるかの予測は難しいが、いくつかの推定はできる。
まず、世界に24億人近くいるといわれるフェイスブックの利用者がこれを使うだけで、それによって形成される通貨圏は、世界のあらゆる国のそれを凌駕する。
現在のフェイスブックの利用者の枠を超えて拡大する可能性もある。
世界には銀行口座を持たない人が17億人いるといわれる。
この人々がリブラを使えば、大きな変化が起きる。
中国の電子マネーであるアリペイやウィーチャットペイの利用者が多いといっても、10億人程度だ。
これを上回る規模になる可能性がある。
日本の人口よりもはるかに大きいから、日銀券より重要な存在になる可能性もある。
いまGAFAを中心とする巨大プラットフォーム企業の影響力の大きさがさまざまな点で議論されている。
リブラは、
「プラットフォーム企業が仮想通貨に乗り出せば、いかに大きな変化を社会に引き起こせるか」
の好例になるだろう。
日本の金融政策も
影響を受ける可能性がある
リブラは、ドルやユーロ等の主要通貨に連動するとされている。それに成功したとすれば、弱小国からのキャピタルフライトが起こる可能性がある。
これは、経済が破綻している国にとって、緊急に対処が必要な深刻な問題だ。
日本でさえ、影響を受ける可能性がある。仮に円安が長期的に続くという予想があれば、日銀券でなくリブラを保有し利用するほうが、便利で、かつ安全ということになる。日本は際限のない金融緩和政策を継続することができなくなるだろう。
こうして、各国の金融政策に重大な影響を与える可能性がある。
アメリカ連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、6月19日、リブラについて「利点もあるがリスクもある」と言及した。これは、リブラが政策当局として見逃せないことを意味している。
取引の匿名性が確保される
マネーロンダリングの温床にも
リブラのホワイトペーパー(https://libra.org/ja-JP/white-paper/#the-libra-blockchain)は、「リブラ・ブロックチェーンには匿名性があり、ユーザーは実世界の本人とリンクされていない1つ以上のアドレスを保有することができます」としている。
これは、秘密鍵の発行にあたって、本人確認をしないということであろう。
そうであるとすれば、
リブラを用いた取引は、誰にも把握できないことになる。
もともと仮想通貨は暗号によって保護されているので、一般の人には取引者が誰であるかを知ることができないが、リブラの場合にはフェイスブックによってさえも把握できないことになる。
したがって、一般に懸念されている「取引データの利用」という問題は生じないだろう。
フェイスブックからの情報流出が問題になったことから、
リブラについてもそうした問題が生じるのでないかとの懸念が表明されているが、
そうしたことは起こらないはずだ。
他方で、マネーロンダリングや節税、脱税、不正取引に用いられる可能性がある。
それをチェックしたり、規制したりすることは不可能だろう。
リブラを規制しようとする考えが表明されている。
例えば、イングランド銀行のカーニー総裁は、18日、「高い基準の規制が必要」と言及した。
G20も、仮想通貨一般に対する規制を強化する方向を目指している。
しかし、そうしたことはできないのだ。
取引所を規制することはできるだろうが、リブラの取引そのものを規制することはできない。
その意味で、これは国家の支配が及ばない経済活動が可能になることを意味するわけで、国家体制に対する重大な挑戦になり得る。
リブラは、理念的にそうした方向のものなのだ。
「リブラ・ブロックチェーン」の思想
5年以内に「非許可型」に移行
リブラは、「リブラ・ブロックチェーン」で運営される。
これは、ビットコインのブロックチェーンより技術的に優れている。
ビットコインは1秒当たり7件の取引しか処理できないのに対して、リブラは、発行当初、1秒当たり1000件の決済を処理できるとされる。
リブラは「許可型」ブロックチェーンとしてスタートする。
「許可型ブロックチェーン」では、アクセスが許可されるとノード(ネットワークに接続する端末)を運営できる。
ただし、ホワイトペーパーは、リブラネットワークを完全に「非許可型」にするという目標を掲げている。
公開から5年以内にこの移行を開始できるよう、コミュニティと連携して調査と移行の実施を進めるとしている。
日本のメガバンクが構想している仮想通貨は、ブロックチェーンとして「プライベイト・ブロックチェーン」を用いる。
これは、リブラのホワイトペーパーで「許可型」といわれているものに対応する。
それに対して、ビットコインなどの仮想通貨は、誰でもノードになれる。
リブラは、当初はメガバンク仮想通貨型で出発するが、5年以内にビットコイン的なものに移行するとしているわけだ。
リブラ・ブロックチェーンでは、「ビッザンチン・フォールト・トレランス(BFT)合意アプローチ」を使用する。
これは、ブロックチェーンに記録されたデータの改ざんを事実上不可能にするための仕組みだ。
ホワイトペーパーは、つぎのように述べている。
「このアプローチはネットワークへの信頼を築くものだ。
なぜなら、BTF合意プロトコルは、一部のノード(最大でネットワークの3分の1)で
不正や不具合可が起きても正常に機能するようにデザインされているからだ」。
「また、このクラスの合意プロトコルは、他のブロックチェーンで使われている『プルーフ・オブ・ワーク』(合意形成アルゴリズムの1つ)よりも高い取引処理、低遅延性、エネルギー効率の良い合意形成アプローチを可能にする」
価格を安定化する仕組みは
機能するか?
ビットコインは現実通貨に対する価格が変動する仕組みになっているため、2018年に投機の対象となってしまった。
このため、送金手数料が上昇し、一時は銀行のATM送金より手数料が高くなってしまい、決済手段としては使いにくくなった。
リブラのホワイトペーパーでは、「決済手段となるには、価値が安定した通貨として信頼を得る必要がある。
リブラには実在する資産による確実な裏付けがある。
生み出されるすべてのリブラに対してリブラ・リザーブで銀行預金や短期国債のバスケットを保有し、リブラの実態価値への信頼を築く」としている。
また、「リブラを売買する取引所の競争力のあるネットワークによるサポートがある、リブラの保有者は、自分が持つデジタル通貨を交換レートに基づいて法定通貨に交換できることが高い水準で保証される」としている。
ただし、このようなことが実際にできるのかどうか、まだ不明なところがある。
投機筋から売りを浴びせられた場合、どうするのだろうか?
この問題は、メガバンクの仮想通貨についても等しく存在するものだ。
究極的にはコイン発行額と同じだけの準備を持つ必要がある。
仮に預金がすべて仮想通貨に変わってしまえば、銀行の資産はすべてその裏付けとして流動資産になってしまい、貸付をできなくなってしまうだろう。
以上で見たように、
リブラにはいくつかの乗り越えるべきハードルはあるものの、
これまでの仮想通貨とは比べ物にならないほどの影響を経済・社会に与える可能性がある。
事態の展開を見守りたい。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
フェイスブックの仮想通貨「リブラ」は国家管理への重大な挑戦
ダイヤモンドオンライン
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