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田原総一朗「権力志向の小池百合子氏が駆使した勝つための手段」
2020.7.8 07:00 週刊朝日
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数
東京都知事選で小池百合子氏が再選を果たした。その小池氏が権力を手中に収める方法ついて、ジャーナリストの田原総一朗氏は「差別されてきた女性だからこそ駆使できるのだ」と分析する。
この原稿が活字となって書店に並ぶときには、小池百合子氏は間違いなく2期目の東京都知事となっているはずである。立候補した時点で、すでに当選確実であった。何よりだらしないのは、他のどの候補も小池氏と争う気力はまったくなく、単に名前を売りたいだけだったことである。
ところで、石井妙子氏が記した『女帝 小池百合子』という書が、20万部という大ベストセラーになっている。私も読んだが、非常に細かく取材していて、大変おもしろい。ただし、徹底的な批判書である。この書を読んで、改めて小池氏は典型的な権力志向の人物なのだと強く感じた。
権力の世界は織田信長の時代から、勝つことがすべて、という点でまったく変わっていないと私は捉えている。負ければ、どんな弁明も通用しない。たとえ、その内容が正しいとしても、負けは負けである。
織田信長は勝つために対立する勢力をことごとく打ち破った。率直に言えば殺したわけだ。勝つためにどのような手段を駆使するか。時代によって、国によって、そして人物によってまちまちだが、正や悪など関係なく、ともかく勝たねばならない。
たとえば、田中角栄氏は金権によって権力を勝ち取り、中曽根康弘氏は、次々に代わる権力者をいかに見抜いてうまく手を組むか、という手腕で権力を勝ち取った。中曽根氏は私に、「自分は風見鶏だ。そして偉大な政治家はみんな風見鶏だ」と言い切った。小泉純一郎氏は「自民党をぶっ壊す」と、それまで誰も口にできなかったタブーを公然と言ってのけて、国民の支持を得たのであった。
小池氏は、石井氏の書によれば、力のある政治家たちを上手に取り込んでは、さらに上の政治家を取り込むために捨てていく。それを何度も繰り返して、東京都知事という権力の座に就いたのだという。
小泉首相が強引に郵政民営化を実施しようとしたとき、当時の自民党には反対する議員も少なくなかった。そのとき、小池氏はわざわざ選挙区を変わって、郵政民営化反対の小林興起議員の選挙区に乗り込み、小林議員を落選させている。つまり、小泉首相に恩を売ったわけだ。小泉政権下では環境相、沖縄及び北方対策担当相に就任している。
もしも、男性議員が小池氏のようなことをやれば、たちまち信用をなくして失脚することになるはずだ。小池氏の場合はなぜ功を奏したのか。
それは、日本では男女差別がひどいからだ。小池氏は、その男女差別を見事なまでに駆使しているのではないか。小池氏に取り込まれて捨てられた男性政治家たちは、恥ずかしくてそれを他に言えない。女性に捨てられるということは、男性にとって情けないことだからである。言ってみれば、差別されている女性だからこそ駆使できるわけだ。
ところで、小池氏が希望の党を結党して民進党と組んだとき、自民党は総選挙での敗北を覚悟していた。だが、小池氏の枝野幸男氏らリベラル派に対する露骨な排除発言により、希望の党は大敗した。当時、民進党の代表だった前原誠司氏に「なぜ止めなかったのか」と問うと、「彼女は怒ると怖いので何も言えなかった」と答えた。
また、去年の秋、「小池さんと組む」と言った二階俊博幹事長に、「小池氏は自民党にとって敵ではないのか」と問うと、「けんかして負けるより、取り込んだほうがいい」と答えた。自民党に、小池氏に勝てそうな人物が見つからなかったようだ。
※週刊朝日 2020年7月17日号
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